若き才能の発露を街の中へ――。10月に開かれた東京コレクションでは、四つのショーの舞台に渋谷・宮下公園が選ばれた。今春に続き2回目となった「シブヤ ファッションフェスティバル」の企画で、土日開催は初めて。招待客でなくても最先端の創造を見ることができ、会場は若者の好奇心であふれた。
2013年春夏東京コレクション 写真特集はこちら大きな熊手を背負い、服を造花や米俵でデコレーションされた「七福神」がしずしずと歩く。独自の物語世界を3部構成で展開したリトゥンアフターワーズ(山縣良和)の発表は、ファッションショーというよりは舞台芸術。「装う力を最大に」(山縣)という試みを、数百人の観衆が見守った。東京ブランドの冒険心が表れ、祭りにふさわしい“事件”となった。
2人組アイドルのライブで新作を発表したのがミキオ・サカベ。長髪の男たちは女の子のようなピンクや黄色の服を着て、ステージ上で少女漫画を読みふける。ファッションが街のカルチャーから生み出されてくる風景を、形にして見せた。
デザイナーの坂部三樹郎は開かれた場所でショーをしたことについて「ファッションは時代と共に動かなければいけないのに、別の場所に置かれている。街の人と交流すればもっと面白いものになる」と語った。
ドラマ「東京ラブストーリー」など懐かしの映像を見せながらバブル期風ルックを披露したジェニー・ファックス(シュエ・ジェンファン)には「ぶっとんでいてビックリ」と訪れた男子専門学校生(19)。知らないブランドを横断的に見られ、面白かったという。
主催の「アッシュ・ぺー・フランス」の松井智則・エグゼクティブディレクターは「一般の人がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で発信し、つながる時代に、業界人だけで東コレをやっていても広がらない。一体感を作る仕掛けをこれからも続けていきたい」と話した。
■大人ブランド 色どり豊かに
若い才能がとがった創作を披露する一方で、“大人”ブランドが正統的なコレクションを発表するのも多様な東京の魅力。今季はデザイナーとして21年目を迎えた芦田多恵が、ブランド名を「ミス・アシダ」からタエ・アシダに変え、よりモードを意識した作品を発表した。
「自分が好きなものは何かと原点に戻って考え、納得したものだけを披露した」という芦田。新しいロゴをあしらった服でショーをスタートさせ、バングル風のレザー小物を利かせたスタイルなどで「等身大」の女性像を見せた。
「娘に負けないように、ハッピーを届けたかった」とショーの直前まで力を注いだという父、芦田淳によるジュン・アシダも、鮮やかな緑と黄色をパンツに用いるなど、若々しい。服地に花を散らした独特のプリントが印象を残したユキ・トリイ、さまざまなレース使いを見せたユキコ・ハナイも心浮き立つショーを披露した。
全体を通して来年春夏の女性服は明るくカラフル。特に青をキーカラーにしたデザイナーが多かった。レース素材やペプラム(ひだ飾り)使いも進化し、装いに変化をもたらしそうだ。(中島耕太郎)