パリにミラノ、NY。コレクションウイークは各地で開催されているが、いざ現実に自分が袖を通す服となると、ショーで見たものは奇抜過ぎてなかなか……、とはよく聞く話。だが26日に閉幕した2010秋冬の東京コレクションでは、「リアルクローズ」が確かに育っていることを実感した。ファストファッションとは異なり、実用的なのに手がこんでいる、こだわっている。海外ブランドに比べ価格が手頃なのも魅力だ。
東京コレクション2010年秋冬をフォトギャラリーで「タイニーダイナソー」はその典型。決して派手ではないが、構築的なフォルムと端正なカッティングは、「エッセンシャル」(必要不可欠)というテーマを真っすぐに伝えていた。よけいなものをそぎ落とす潔さは、時に平坦さにもつながりかねない。それを洗練に変え、新たなバランスを生み出していた。
トラッドカジュアルの王道を行く「ビューティフル・ピープル」。村上春樹の小説「ノルウェイの森」から着想を得たキャメルなどの色合いが目を引く。一部の服には、専用メガネで見ると3D効果で文字が浮かび上がる遊び心も。チェックのシャツに手編みのカーディガン、胸にはダブルデッカー(二階建てバス)や衛兵をあしらい、ブリティッシュテイストも漂わせた。
東京最古の劇場である三越劇場を使った「シアタープロダクツ」。リブ編みタイツや斜(はす)にかぶった小さめのヘッドドレスなど、レトロな小物を随所に効かせつつ、パテントファーなど現代の素材を用いて、古きよき時代の香りをモダンに表現した。すぐにも街で着られる実用性も備えつつ、ウグイスなどの新鮮なモチーフも。
「百貨店の持つワクワク、ドキドキ感を詰め込んだ」とデザイナー。不況にあえぐ百貨店業界が、輝きを取り戻すための応援歌になるのか。
「ミス・アシダ」「ユキ・トリイ」などのベテラン勢は、今回も上品で仕立てのよいセレブルックを提案。ファー遣いなどのディテールは日々の装いの参考になる。
東コレも開催10回目を数え、来場者数は16%増、関連イベントと合わせた総動員数は3万人を超えた。登録したプレスやバイヤーの数も、欧米やアジアなどの海外21カ国を含め約1300人を超えた。東京発ファッションがひとつの潮流となる日はそう遠くはなさそうだ。
次回2011年春夏コレクションは、10月18日から23日の6日間。(アサヒ・コム編集部・柏木友紀、写真は大原広和氏)
【2010年秋冬 東京コレクション速報】