次の秋冬からエルメスのレディースのデザイン担当に決まった。この10年はワニマークで知られるラコステを担当しておしゃれに変身させた。転身を機に自身のブランドのショーを久しぶりにパリで開き、心境を語った。
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今回ショーを開いたのは、自分はどんな存在で何を本当に作りたいのか、もう一度考えてみたかったから。分かったことは、半年ごとの流行のスタイルではなく、言語におけるアルファベットのように、着る人が装いの基礎として使える服を提案したいということ。素材や仕上げに豊かさがあって、都会的なのに退屈じゃない、何年も着られる服。自宅のクローゼットにいつもあって、カットや量感が自分に合い、いつでも使える。そんな服を見つける手助けをしたい。
エルメスを担当できることは、素直にうれしい。本物のぜいたくな服とは、心地よく、堂々として美しく、自分自身と調和していると感じられる服だと思う。人間の深い内部にある、豊かさを表す印のような服が作っていけたらと考えています。
1980年代以降、モードは巨大なビジネスに成長して、派手さや豪華さを求め過ぎて、一般大衆の気持ちから離れてしまいました。エレガンスとは本来、お金や物など物質的なものではなく、尊厳や常識から生まれるもの。モードには常に新しい反抗精神が必要だけれど、いまはそれが内面的な静けさの中から生まれてくると思う。(編集委員・高橋牧子)