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東京発ブランドの新たな進路

2010年4月15日15時42分

写真:「ビューティフルピープル」(beautiful people)拡大「ビューティフルピープル」(beautiful people)

写真:「ヨシオ クボ」(yoshio kubo)。写真はいずれも大原広和氏撮影拡大「ヨシオ クボ」(yoshio kubo)。写真はいずれも大原広和氏撮影

 「東京らしさ、って何?」というのは、ミラノ、パリの後に開かれる東京コレクションにいつも問われた課題だった。3月下旬に開かれた2010年秋冬コレクションでは、新しい「東京らしさ」につながりそうな変化の兆しが久しぶりに見えた。そう感じさせたのは、メンズの、またはメンズも得意な面白い若手ブランドの参加が増えたことだった。

 たとえば、何か形のない詩的イメージを色やカッティング、切り替えなどで精密に構成してみせた「ヨシオ クボ」(久保嘉男)。東京のいまのストリートトレンドを、これも実は東京ストリートの基本技ともいえる英国トラッドの手法でとてもクールでしかも楽しげに表現した「フェノメノン」(オオスミタケシ)、チベットをデーマにして岡山のデニム素材を使って質感の高いリアルクローズに仕立てた「ファクトタム」(有働幸司)……。

 メンズに限らず、村上春樹の「ノルウェイの森」からイメージを得たという「ビューティフルピープル」(熊切秀典)のすっきりとしたダッフルやピーコートは、おしゃれで細身な男子にもよく似合いそうだ。

 こんな若手ブランドが今までと違うのは、オジさん世代から見てもカッコよく見えることだ。まず直感的に分かるのは、素材の選び方やディテールの完成度が高くて、若者ブランドにありがちな安っぽさがない。「ファクトタム」のデニムからは日本の産地の職人の心意気が伝わってくるし、「ヨシオ クボ」の微妙に変化するディテールと全体のシルエットのバランスも見事なものだ。

 もうひとつは、どうせ不況なのだからいっそのこと、というぐらいに、パリやミラノのトレンドとはほとんど無縁なこと。ミニマルなリアルクローズかクラシック、またはそのミックスしかない欧米のトレンドと比べて、東京の若手ブランドには、自然や旅などをテーマに時代のうねりを自分の実感で見つめようとする発想がある。そして、これらの服にはどこか、ぜいたくさや過剰さといったものへの欲の無さを感じさせる。

 そこで思うのは、「嫌消費」世代とか「シンプル族」とかいわれる最近の若者世代の傾向だ。クルマにも外国にも豪華な外食にも興味がない、などというとちょっとびっくりしてしまうのだが、地球環境や資源が限界に達しつつあることを考えればむしろ共感できるのだ。オジさん世代にもカッコよく見えるのは、そういう点でも納得できるからだ。新たな東京の若者ブランドは、そんな生活スタイルや価値観にオシャレな形を与える服ともいえるのではないだろうか。

 主に若い世代を中心とした嫌消費的な傾向は日本だけではなく、たとえばアメリカでは「カルチュラル・クリエイティブス」などと呼ばれる社会層を形作っていて、ヨーロッパなどでは食なども含めた「オーガニック」なスタイル志向として注目されている。もしかすると、新たな東京ブランドは世界に向けて発信していける大きな可能性をつかみかけているのかもしれない。

【フォトギャラリー】東京コレクション2010年秋冬

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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