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グスタボ・リンスの新しさ

2010年5月13日10時13分

写真:グスタボ・リンス(東京・青山のスタジオで)拡大グスタボ・リンス(東京・青山のスタジオで)

写真:2010年春夏の新作 レザーブルゾンとストール拡大2010年春夏の新作 レザーブルゾンとストール

 ブラジル生まれで、25歳まで建築を学びバルセロナへ留学。それからパリで初めてファッションを勉強して、15年間もゴルチエやジョン・ガリアーノなどのもとでモデリスト(パタンナー)として働いた後、03年に独立。こんな経歴からはあまり新味は期待できなさそうなのだが、グスタボ・リンスは実はとても新しいタイプのデザイナーだ。東京・代官山のリフト・エクリュなどで新作コレクションの紹介も兼ねた造形作品展のために来日した彼と話して、改めてそう思った。

 流れるようなドレープと直線が入り交じった彼の構築的な服は、ちょっと目にはとてもヨーロッパ的に見える。それはパリ・オートクチュール伝統の仕立てを思わす端正さでもあり、また一方でアントワープの前衛派の服によく見られるようなアーティスティックでやや観念的な表現の仕方のせいであるのかもしれない。しかし、もっと見ているうちに、そのどちらとも違うことが分かってくる。

 たとえば、この服にはボタンで留めるような支点がない。だから、着る人の体形や体の動きによって服のシルエットはたぶん千差万別に変わるのだろう。デザイナーは体形の美しさについてあらかじめの基準などは持っていないに違いない。よく見ると、表と裏の境もない……。そういえば、この服がいちばん似ているのは日本のきものじゃないか。そんな感じなのだ。

 かといって、イッセイ・ミヤケやコム・デ・ギャルソンがやったような「一枚の布」の発想とは明らかに違う。こういう造形の仕方は日本の伝統的なやり方とは違って、あくまで立体を念頭に置いて構築されたものだ。そういう意味では彼の造形の仕方は、若いころに身に付けた建築家としての合理的な手法が生かされているのだろう。ただし、それがたとえば同じ建築家出身だったジャンフランコ・フェレなどと決定的に違うのは、体と服の関係についての考え方だ。

 「お寺の建築の構成の仕方、喜多川歌麿の美人画のきものの美しいドレープとフォルム。そんな日本の文化から大きな影響を受けた」とリンスは語った。それがどう影響したかというと、造形の前にどんな理想形も持たないようにすることだったという。西欧的な構築の仕方というのは、それが「神」の理想を目指したものにしても、または「人間中心主義」によるものだとしても、同じように生身の人間にとっては押しつけがましい理想を強いるものだった。

 だから彼の手法は、生身の人間の体の形と動きが服とどう連動するかを厳密に解析して、それを合理的に構築する、といったようなことになるのだろう。そのためにはいい加減さやあいまいさを認めるのびやかな気持ちが必要なのだが、異民族が入り交じって暮らすブラジルの風土も色濃く反映しているに違いない。

 もう一つの新しさは、ビジネスの仕方だ。彼はまず何からなにまですべて1人で始め、それから必要に応じてちゃんとした対価を払って雇えるスタッフを増やしていった。「身の丈にあった正当なやり方で、最高のものを目指していきたい」とリンス。ラグジュアリーブランドでも多くの才能ある若者がスタージュ(研修)として働いているが、「あんな奴隷労働のようなことは絶対認めたくない」という。いい心意気ではないか。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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