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「D&G」日本撤退の波紋

2010年6月10日10時20分

写真:「D&G」2010年春夏の新作拡大「D&G」2010年春夏の新作

写真:「D&G」2008年春夏の人気スタイル拡大「D&G」2008年春夏の人気スタイル

 ドルチェ&ガッバーナのセカンドブランド「D&G」の日本市場撤退のニュースが、ファッション好きの間では大きな話題になっている。筆者が教えている大学の学生からも「どうしてなんですか」との質問をよく受けるし、ネットでも色々な感想が飛び交っているようだ。質問した学生に「D&Gをなにか持ってる?」と聞くと、「似たのは買うけれど、本物は買わない、買えない」との答えが多かった。

 よく考えてみると、「D&G」撤退の事情はその答えに象徴されているようだ。ドルチェ&ガッバーナの本国幹部は撤退の理由として、日本の店舗の規模ではD&Gの新たなトータルコンセプトの展開ができないこと、そして日本ではD&Gが最もコピーが多いブランドになっている事実を挙げている。店舗展開のことはともかくとして、コピーが多いという点についてはちゃんと考えてみる必要があるだろう。

 デザインのコピーについては、商標や特許などのコピーとは違って、どこまでがコピーなのかという悩ましい点がある。特にファッションデザインは流行やトレンドが大きな役割をもつためデザインが似通ってしまうことが多い。よほどあからさまなデザイン盗用でないかぎりは、あまり文句を言わないのが普通となっている。かつてココ・シャネルは「誰も真似したがらない服なんて最初から魅力ない服なのよ」と言って、あふれるシャネルのコピー商品に対して平然とした構えを見せた。よく似た服やバッグが街にあふれてこそ、本物のシャネルの価値がより高まるという考えだった。

 しかし、だからといってコピーがまかり通っていいというわけではない。ファッションデザインには常にある種のコピーの要素があることは認めるとしても、問題なのは程度であって、そのことをどれだけきちんと考えているかどうかなのではないだろうか。

 日本は世界のファッション大国といわれるようになってもう大分たつ。しかし東京コレクションを見てきてずっと感じるのは、パリやミラノなどのコレクションと比べて東京はデザインのパクリがあまりにも多いことだった。世界に冠たる東京のストリートでも、109系のリアルクローズにしても、一見いかにも東京風だがアイテムのデザインはパリやミラノの以前のコレクションで見たな、と思うものが多いことも否定できないのだ。

 なぜそうなってしまうのか? 和服の伝統を断ち切って日本は、戦後はまずアメリカ、そして次にヨーロッパを手本にして新しいファッションを取り入れてきた。そうした経緯でファッションは所詮欧米のもので真似するもの、という暗黙の前提があって、それがコピーの程度の垣根を低くしているのかもしれない。だから、森英恵や高田賢三、またイッセイミヤケやコムデギャルソンらが独自性をもって挑戦したデザインですらも、同じようにコピーの対象にしてしまっているのだ。そして消費者の方も安いコピー商品で満足して、それなりの対価を払ってオリジナル商品を買う気概を失くしている。

 ドルチェ&ガッバーナの本国スタッフとは浅からぬ付き合いもあって、彼らが日本のマーケットをどれだけ重視していて、販売にも大きな努力を注いでいたかということを知っている。それだけに、今回の決断は彼らにとっても残念なことだったと思う。それだけに、これを機にしてデザインコピーの問題をきちんと自省してみることが必要なのではないだろうか。それはファッション大国としての責任でもあると思う。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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