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「ストリートファッション」の誕生 青木正一が撮り続けた写真

2010年7月29日10時52分

写真:ちょっとシックでアバンギャルドなペアルック拡大ちょっとシックでアバンギャルドなペアルック

写真:黒のミニの男性とデニム、ロングブーツの女性のカップル拡大黒のミニの男性とデニム、ロングブーツの女性のカップル

写真:エレガントなジャケットと短パン、ドレッドヘア拡大エレガントなジャケットと短パン、ドレッドヘア

写真:ミッキーマウスのセーターとベビーカー拡大ミッキーマウスのセーターとベビーカー

写真:青木正一さん。写真展会場で拡大青木正一さん。写真展会場で

 「ストリートファッション」は、かつては「族ファッション」のこととされていた。1950年代の「太陽族」や、その後の「六本木族」「みゆき族」などが戦後の「族」のはしりだった。いまや東京のストリートは世界でもトップだと内外ともに認められているが、いまのストリートファッションの意味は「族ファッション」の場合とは実はかなり違う。

 「族ファッション」はスタイルとしてはかなり強い独自性があった。しかし、それを着た一人ひとりの個性があまり感じられず、全体としてはみんな同じように見えた。それはやはり問題で、なぜならファッションというのは「みんなと同じ」という安心感をもたらす一方で、「これだけは自分」という個性の表現をも同時に満たすものだからだ。

 特にストリートファッションは、ブランドや一人のデザイナーが作りだすものではなくて、おおげさに言えば「街の息吹」の中から生まれてくるもの。だとすれば、それは一人ひとりの個性やセンスがまず先にあって、それが自然に集まって一つの大きな流れになる、という現れ方になるべきなのだと思う。

 写真誌「ストリート」の編集発行人で、世界各都市でストリートファッションの写真を撮り続けてきた青木正一の優れた写真の数々は、そのことを鮮やかに思い起こさせてくれる。特に1980年代の中ごろのロンドンのストリートのショットは、あの比較的狭い空間の中で独創的で自由な自己表現としてのファッションがごった煮のスープのように渦巻いていたこと、そして、それが本来の意味での「ストリートファッション」の誕生の時だったことを示している。

 茶のレザージャケットに黒のミニスカートを合わせたスキンヘッドの男と真っ赤なシャツにデニムと黒のロングブーツの女性のカップル、エレガントな青緑のジャケットに短パン姿のドレッドヘアの男、赤地にミッキーマウスのセーターと黄色のリボンとミニを合わせて人形を積んだベビーカーを引く女……。以前の時代にやはり「族ファッション」だったパンクの影響は残しながらも、それぞれが自分で考えた自分しかできないような格好できめていた。

 そのころ日本ではやっていたのは、ワンレン・ボディコンや渋カジ。「どれも基本的にコンサバで、みんな同じという感じ。ロンドンのストリートは新鮮で衝撃的だった」と青木は語る。前衛的なはずのDCブランドでさえも、その着方は画一的で結局は「カラス族」と称された族ファッションでしかなかったという。東京が世界に冠たるストリートファッションの発信源になったのは、もっとずっと後で、90年代の中ごろを過ぎてのことなのだ。

 その青木の写真を集めた「ストリート」写真展が、東京・表参道のジャイル3階で8月29日まで開かれている。85年から95年までのロンドンとパリ・コレクションの会場周辺で撮ったもので、ストリート誌に掲載されたショットが展示されている。

 パリ・コレの周辺でも、あの当時は今とは違う自由で奇抜な装いをした男女が多かったこと、そしてもっと熱気に満ちていたことに改めて気づかされる。青木は会場内のランウエー周辺のジャーナリストやデザイナーたちの撮影もしている。ジョン・ガリアーノは今よりずっと野性的だし、ジャンポール・ゴルチエはいたずら小僧のようだ。いまや業界の大あねごのような米ヴォーグ誌のアナ・ウィンター編集長やヘラルド・トリビューン・インターナショナル紙のスージー・メンキス記者も若々しくて、今とは違う表情をしていた。

 パリなどで、いつも会場周辺で黙々と撮影している青木の姿をよく見かけた。同じ時に同じ場所にいて、彼はきっと別のもの、こちらが見ようとしなかった、または見落としていたものを見続けていたのだろう。写真展を見ていて、なんだか身のすくむ思いにもさせられた。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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