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来シーズンはコムデギャルソンですべてが分かる!

2010年10月21日

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写真:コムデギャルソン拡大コムデギャルソン

写真:同上拡大同上

写真:ジュンヤ・ワタナベ拡大ジュンヤ・ワタナベ

写真:タオ・コムデギャルソン=いずれも2011年春夏パリ・コレクションより、大原広和氏撮影拡大タオ・コムデギャルソン=いずれも2011年春夏パリ・コレクションより、大原広和氏撮影

 トップファッションの世界はもう10年以上も、「クラシックスタイルの手直し」という同じ手口を繰り返してきた。50年代とか70年代、80年代といった、たかだか前世紀のそれも、ほとんどその後半に生まれた“クラシック”を、その同時代だったはずの「モダン」な感覚でリバイズする手法だ。そんなことをしているうちに、多くのラグジュアリーブランドの売れ行きはどんどん頭打ちになり、ファストファッションやスポーツ系ブランドが勢いを伸ばした。

 ミラノ、パリに続いて東京でも2011年春夏レクションが開かれているが、来年はトップファッションの風向きが少し変わってきそうだ。もう手垢(てあか)がつきそうになった手法にしがみつきながら景気の回復を待つ、というのではなくて、世界の現実をきちんと見てファッションの世界から何かを積極的に打ち出していこうとする姿勢が見えてきたことだ。東京・青山のコムデギャルソン本社で観た、パリで開かれた新作コレクションのビデオは、そのことをとりわけ明確に感じさせた。

 コムデギャルソンの3つのブランドは、3つ合わせると来シーズンの主なトレンドをすべて代表、または先取りしていて、同時にそれぞれのやり方で今の時代への鋭い感受性を何とか作品に込めて、暗黙のメッセージを伝えようとする姿勢という点で共通している。そういう意味では、今回のコムデギャルソン3ブランドは、世界的にも来シーズンのハイライトというべき出来栄えといってよいだろう。

 まずメインの、川久保玲がデザインするコムデギャルソンは、これまで多くが安易にリバイズしてきた「クラシック」を、どうせやるならと徹底的に駆使して逆さまにひっくり返したような服を並べた。背中に別の上着やその何本もの腕が垂れ下がったジャケットや、コートが逆さ吊りになったドレスといった具合。それらは一見とても奇怪に思えるが、それぞれのパーツはとても端正なテーラード、またはクチュール仕立てだ。

 吊ったりくっ付けたりしたやり方も、あえて無造作なようでいて出来上がった全体の形はとてもシックでエレガントな「クラシック」をも思わせる。または、そのクラシックのステレオタイプへの揶揄(やゆ)とも受け取れる。川久保はバックステージで「多重人格」とか「逆さま」とか、例によってテーマについて仕方なく語ったそうだ。だがそんなことよりも、彼女がこの新作で表現したかったことは、曖昧な手法で立ちどまったままのファッション界やそれが依拠している今の社会の閉塞感への強いいら立ちに違いない。

 思えば、川久保はもうずっと前からその「いら立ち」に突き動かされて、それをバネに作品を作り続けてきたのだろう。今回はその思いがもろにストレートな形で表現されていて、そのことが服に際立って強い存在感を与えている。問題は、彼女が突き付けた「揺さぶり」を、受け取る側がどれだけこなせる感受性があるか(または残っているか)だろう。

 ショーの最後に登場した、二人のモデルを双子のようにつないだドレスは、解釈のしようによってはとてもスキャンダラスな服だった。それは多分、川久保があえて付け加えたクイズ付きの挑戦状なのだと思った。

 ジュンヤ・ワタナベは、クラシックと並ぶ今のファッションの定番といえるカジュアルのアイテムを、最も洗練された「ジャパン・クール」の表現で新たな形を与えた。Tシャツやトレンチコート、ストライプ柄などを柔らかな素材を使って重ね着する手法で、軽くポップなマリンルックに仕立てた。モデルは明るい赤や黄色、緑などのウイッグと半透明のマスクをしていて、どこか現実感のないキャラクターを思わせる。

 デザイナーの渡辺淳弥は「東京ドール」と語ったそうだが、それには多分とても深い意味が込められていそうだ。いまのジャパン・クールには、その一見軽くてポップな「可愛さ」の奥に、既成の社会に対する醒めた見切りのようなものが潜んでいるからだ。マスクは、それを承知で可愛さを演じる東京のおしゃれな女の子たちの人形ぶりの象徴とも受け取れる。カラフルなウイッグも見ようによっては不気味な「キモカワ」に見えた。

 栗原たおがデザインするタオ・コムデギャルソンは、ふわふわしていて砂糖のお菓子のように可愛くて、かつ着やすそうな服だ。しかしそれでいて、パターンやカッティングは複雑で、コムデギャルソン独特なアヴァンギャルドの手法もぎっしりとさり気なく詰まっている。淡いピンクや紫の色使いや水玉模様も秀逸で、このデザイナーの感度とセンスのよさを物語っていた。

 あえて挑戦するような強い造形、やわらかで揺れるような軽さ、ロマンチックで同時にナチュラルな感覚……。来シーズンのファッションの傾向はコムデギャルソンのこの3ブランドを見るだけで、最も優れた形で、しかも効率的に分かるのだ。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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