現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. ファッション&スタイル
  4. コラム
  5. 上間常正のアッと@モード
  6. 記事

二人の「王子」 さりげない着こなしの向こうに

2011年2月21日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真:  拡大  

写真:  拡大  

 大相撲の春場所はこけてしまったが、もうすぐ球春がやってくる。各球団がキャンプを張っている沖縄に先日所要で出かけたのだが、中でも日本ハムがベースにしている名護市のにぎわいが一番。市内のホテルはどこも満員の盛況ぶりで、地元の知人によると「去年の10倍ぐらいの人出。もー、怖いさー」とのこと。もちろん大人気のルーキー、斎藤佑樹選手のせいだ。

 ちょうど同じころ、ゴルフの石川遼選手も沖縄でトレーニングをしていて、その周辺もやはりにぎわっていたという。期せずしてスポーツ界の、というよりもそれを超えた若手アイドルが時を合わせて同じ地に顔をそろえた格好になった。二人ともスポーツ選手としての力量の可能性は十分にありそうだし、ルックスもなかなか、礼儀正しい態度にも好感がもてる。だが考えてみれば、まあそれだけのことで、実を言えば何でそんなに人気なのかはあまりよく分からない。

 では、二人はファッションではどうなのか? とついでに検討してみた。アイドルなら、ファッションと無関係ということはないと思ったからだ。どちらもまず思い浮かぶのは競技中のユニフォーム姿だが、野球とゴルフではちょっと事情が違う。同じチームなら全員一緒という野球に対して、ゴルフは一人ひとり異なる。しかしゴルフの場合でも、スポンサー契約したウエアを着ていると思うので、お仕着せという意味では同じだろう。

 斎藤選手は、早稲田の特徴的な立襟付きのユニフォームを高校から7年間も着ていた。それだけ続けば馴染んだある種の味が漂ってくる、というよりむしろ同じ服だからこそかえって個性が出てしまう。制服というのはそうしたものなのだ。斎藤選手のユニフォーム姿は、グラウンドの泥などとは無縁でいつもおろしたてのように白くて、例の青いハンカチのせいか汗も感じさせないような清潔でクールな印象だった。

 それほど体力に恵まれているわけではないのに優れた成績をあげたのだから、練習では泥にまみれ汗と涙も流しただろう。だが試合の時のユニフォーム姿にはそんな跡を感じさせないのは、かなり意識的な自己抑制や自己演出が働いているからだ。それが「王子」と言われたように、努力などとは無縁でどちらかといえば未成熟なイメージになるのは大したものだと思う。

 石川選手の場合は、着ているゴルフウエアが似合っているとは言えない。色も滅茶苦茶だし、着こなし方にも独自の工夫が感じられない。それでいて、いわゆるゴルフウエア特有のオジサンぽさや玄人のアンちゃんっぽさを感じさせないのは、やはり大したものだと言うべきだろう。

 この二人に共通しているのは、いかにも努力しているというようには見えないこと。そして、このスポーツの才能がなかったらこの子はどうなっていただろう、と思うような危うさや直接的な凄みを感じさせないことだ。その代わりに二人とも、本人の努力だけでは身に付かない、持って生まれたような、または幼少時からの体験で育まれた「品格」のようなものが備わっている。

 ユニフォーム以外の私服でも、このイメージは共通している。斎藤選手はなかなかの高級スーツをさり気なく、無個性的に見えるくらいきちんと着こなしている。ユニフォームの時とは逆に、石川選手は黒のジャケットと白いシャツをかなりのセンスを思わせるさり気ない崩し方でこなしている。

 こんな着こなしは、たとえばサッカーのカズや中田、本田選手のようなおしゃれなスポーツ選手のファッションセンスともかなり違う。中田や本田らにはギラギラした闘争本能やそこから発する屈折したセクシーさがあるのだが、この二人からはそんな攻撃性は感じ取れない。そのくせ、彼らは同世代のスポーツ選手たちの中では傑出した能力と勝負強さを示してきた。

 とはいえ、この二人が今後大成するかどうかは分からない。もし聞けば「これからも謙虚に努力を重ねます」と答えるだろう。だがあえて言えば、彼らは超一流には多分ならないのではないかという気がする。石にかじりついてでも際限なく上をめざす、他人を蹴落としてでもトップを取ること。これまでは選手にとっては当然のこととされてきたエトスが、この二人にはあまり似つかわしくないと思うからだ。

 努力した者は報われる、その機会と結果を保証するのが自由と民主主義。というのが、スポーツに限らず近・現代の産業社会そのもののうたい文句だった。しかし地球の資源と環境の限界性や貧富の差の拡大などによって、産業社会の在りようや考え方が大きな転換を余儀なくされてきている。この二人の王子さまの人気は、単なるミーハーブームではないのかもしれない。彼らを支持する広範の人々もやはり大したものだ、とも言うべきだろう。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介