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2011年7月21日10時37分
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上間常正のアッと@モード

好調スーパークールビズ、その新たな価値観とは

上間常正

写真:ポロシャツとジャケット、白のチノパンの組み合わせ(いずれも三陽商会のブランド「アレグリ」)拡大ポロシャツとジャケット、白のチノパンの組み合わせ(いずれも三陽商会のブランド「アレグリ」)

写真:スウェットガード加工のビズポロ拡大スウェットガード加工のビズポロ

写真:「スマートウォーマー」のマーク拡大「スマートウォーマー」のマーク

 今年の夏のファッションの話題は、なんといっても”スーパークールビズ”だろう。去年までのクールビズに「超」がついたわけだが、提唱元の環境省の説明でもどこがスーパーなのかはよく分からない。具体的なアイテムでいえば、ポロシャツやTシャツ、ジーンズ、そしてアロハシャツまでがお勧めアイテムとして加わったこと、そして期間が前後にそれぞれ一カ月ずつ延びたことくらいだろうか。

 提唱の背景についていえば、クールビズは地球温暖化対策のため、CO2排出削減の一環としての努力目標だったが、今回は電力供給危機による節電のためという切羽詰まった事情があるのかもしれない。いずれにしても、冷暖房のためのエネルギーを必要以上に使わないようにするのは望ましいことだ。しかし、電力節約のために装いを軽くしましょうということだけでは、切迫度にかかわらずなかなかうまくいかないだろう。

 クールビズが言われて6年になるのに、期待したほど浸透していなかったのは、なぜクールビズを着るのかという積極的な理由や動機付けが必ずしも明確になっていなかったからだ。それがなければ、装いを軽くするというのは単にだらしなく着崩すことにしかならず、イメージもよくない。特に男性の場合は(クールビズといえばたいていはメンズのことだったのだが)、カジュアルをうまく着こなすにはきちんとしたフォーマルな服装についてのそれなりの知識が必要とされている。

 とはいえ、今年の夏は去年までのクールビズとは違う変化が起きていることは事実なようだ。紳士服の変化というのは大手アパレルが扱う中級以上の全国展開のボリュームゾーンで起きないと主流にならないのだが、たとえば三陽商会によると、今年はスーパークールビズをうたったブランドの売り上げが特に6月以後は対前年比で二桁以上の伸びを見せているという。もうずいぶん長く前年割れの低調が続いていたことからすれば、この変化はかなり目覚ましいことだといってよい。

 この変化はまず若い顧客層から始まったが、すぐにミドル、シニア層にも及んだという。アイテムとしては、吸水速乾などの機能素材の半袖シャツ、しっかりとした台襟付きでネクタイもできるようなポロシャツ(いわゆる「ビズポロ」)、それと組み合わせる綿素材やジャージーのパンツなどが売れ筋。いずれも今年の新商品で、脇の下の汗を目立たないようにする特殊加工や、触ってひんやりと感じさせる「接触冷感機能」をもたせた新素材などの工夫をこらしている。

 三陽商会では「アロハ系のシャツとかデニムというような新アイテムを導入するのではなくて、これまでのビジネスシーンで違和感の少ないようなアイテムの機能性を高める方向で対応した」と説明している。この選択は正解だったと思うが、同社でも認めているように、売り上げが伸びた要因は東日本大震災、それによって起きた福島原発事故による電力危機だろう。そしてそれは、電力節減ゆえに薄着という受け身の反応ではなく、多くの人が今回の震災、原発事故という出来事をもっと深い感覚で真剣に受け止めていることの表れなのではないかと思う。

 そうした深い感覚のレベルだとすれば、それは単に必要に迫られての消極的な選択ということにはならない。たぶん、自分が装うということをどう考えて何を選ぶのか、というファッションの本来の自己表現という意味での選択にかかわるレベルでの変化なのかもしれない。クールビズで問われなければいけなかったことは、本当はなぜ暑いのにスーツと長袖シャツを着てネクタイをしているのかということだったのだ。

 もしスーパークールビズが大きな変化となって続くのだとすれば、そのためには福島原発の事故によって明らかになった、エネルギーを無限に消費して成長を続ける産業社会の限界、そしてそれが当然として働いてきたビジネス社会の服装のあり方と自分との関係を自覚的に再確認することが求められるだろう。だから、スーパークールビズは大げさにいえば新しい生活スタイルの理念のようなものを分かりやすく打ち出す必要がある。

 三陽商会は、今年の冬に向けたスーパーウォームビズの提案を打ち出している。機能素材を使った薄くて軽く、暖かい服を開発し「スマートウォーマー」と銘打って16ブランドで展開するという。この発想は、暑いから薄着で着崩す、寒いから厚着するというやり方とは違っていて面白いと思う。言われてみれば単純に思えるが、こういう発想に新しい価値観の表現の可能性があるのではないかという気がする。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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