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2011年12月15日10時30分
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上間常正のアッと@モード

ルイ・ヴィトンのバッグで作った小動物たちの「問題提起」

上間常正

写真:ビリー・アキレオスさんとクマ拡大ビリー・アキレオスさんとクマ

写真:ダミア地のイヌ拡大ダミア地のイヌ

写真:バッタ拡大バッタ

写真:アルマジロ拡大アルマジロ

 デザインと装飾の微妙な関係とは? そして、オリジナルとコピー、またアートとファッションの関係とは……。ルイ・ヴィトン表参道店に展示されていた革小物で作られた小動物たちのインスタレーションを見ていて、そんな関係について色々と考えさせられた。

 このユニークな動物たちは、ルイ・ヴィトンの革小物製品を素材に使って、ロンドンをベースにする若手女性アーティスト、ビリー・アキレオスが制作したもの。旅行用の大型トランク作りからスタートしたこのブランドが、革小物製品を作るようになってから100周年になるのを記念しての企画だという。

 店の入口近くのカウンター脇にあった、緑色のエピの大きな耳と目がちょっとシュールでかわいいカメレオン。レザーの質感がたっぷりで硬そうだがユーモラスな表情のアルマジロ、飾りのファーを生かしたペルシャネコやミアキャット。やや不気味だがフォルムが美しい茶色のコブラや緑の大型カエルも。イヌは布地のダイミアバッグでアイボのように抽象的に造形されている。

 入り口の正面にあった大きなクマは、このブランドのバッグの最も代表的な茶色のモノグラムの大小のバッグをいくつも組み合わせ、バッグの留め金やジッパー、キーホルダーなどで豊かな表情を付け加えてある。このクマに限らず、素材に使われた革小物は元の形と色がほとんどそのままに使われていた。それがかわいい生き物としてデザインされているため、革の質感やブランドのロゴや模様がバッグとして見た時よりもかえって生々しい存在感を帯びて見えた。

 このことはバッグそのものについても同じことで、ルイ・ヴィトンのバッグそのものが、街の中で実際に女性が手にしているという本来の使われ方をされている時よりも、クマやアルマジロの素材というある意味では「もったいない」使い方をされたためかえってゴージャスな存在感を感じさせるのも不思議だ。

 こうした事情は、宝石や貴金属がそれだけで展示してある時よりもアクセサリーとしてデザインされ、特に有機的な形になった時のほうが本来の質感や輝きが増すのと共通しているだろう。ルイ・ヴィトンの小動物は、素材と形の関係でいえばバッグという原形に対する装飾の結果といえるのだが、その作用の本質とは視覚の混乱をあえて仕組むことによって素材の存在感を浮き立たせることといってよいのかもしれない。

 そのことをルイ・ヴィトンが意図していたのかどうかは分からないが、この試みはバッグそのものの存在感を改めて見せたという意味でも成功した企画といってよいだろう。

 作品の中には、カラフルなロゴ模様のバッグで作ったバッタもあった。それを見ると、去年に神戸のファッション美術館に出品された岡本光博作の≪バッタもん≫を思い出した。ルイ・ヴィトンが登録商標権の無断使用に当たるとクレームを出したため美術館側がただちに展示を撤去したことで話題になった作品だ。しかしことの是非はともかくとして、アート作品として見るならばどちらも簡単には甲乙つけがたいという気がする。

 素材としての存在感は今回の方が確かなような気はするが、岡本の使った素材がコピー商品だったとしても作品としての評価には素材が本物かコピーかはほとんど関係ないのだ。むしろ素材の存在感がより薄ければ逆にデザインとしてはより高度なのだということにもなる。

 アートとファッションの関係についていえば、神戸の≪バッタもん≫や今回の作品が話題になったとしても作品としての評価が美術界から積極的に寄せられないのは、そこにルイ・ヴィトンという「ファッション」=商業主義の図式が介在しているからだろう。しかし、本当に純粋な芸術というのがあるのかどうかはよく分からないが、いわゆるファインアートというジャンルや考え方ができたのは、実際にはそうした作品が商業主義の枠組みにくみこまれるようになった近代になってからに過ぎない。

 問題は、芸術とか工芸だとかファッションだとかではなくて、作品としてみてどれだけ質が高いかどうかということだけなのではないと思うのだが。そんなある意味では当たり前のことが素直に通らないのは、たぶん近代的な考え方の枠組みがまだよほど強く我々を呪縛しているからなのではないかと思う。近代社会の現実的な枠組みは、もうすでにガラガラと崩れ出しているというのに。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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