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2012年1月24日11時17分
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上間常正のアッと@モード

すでに始まっている東京の新しいファッションの創造

上間常正

写真:スクワァッチファブリックス。古着のレザージャケットや革パンツを解体して作り上げた実物大の馬や牛拡大スクワァッチファブリックス。古着のレザージャケットや革パンツを解体して作り上げた実物大の馬や牛

写真:アンリアレイジ。縦横の比率や太さなどが普通と思われている寸法とは大きく異なる形の服拡大アンリアレイジ。縦横の比率や太さなどが普通と思われている寸法とは大きく異なる形の服

写真:ケイスケカンダ。四畳半の和室で「洋服」を描くというプレゼンテーション拡大ケイスケカンダ。四畳半の和室で「洋服」を描くというプレゼンテーション

写真:h.NAOTO。30着の服をチェーンで吊るしたインスタレーション拡大h.NAOTO。30着の服をチェーンで吊るしたインスタレーション

 年が明けて、ファッション界はすでに次の秋冬物の新作発表シーズンが始まっている。最も早いのが今月中旬に開かれたイタリア・フィレンツェの紳士服の見本市と続くミラノ、パリのメンズコレクションだ。この時期にもう30数年間も欠かさずに通っていた知人の紳士服関係者が、今回は初めて行かなかった。その理由は、新作の発表にあまり期待をもつことができず、いま関心があるのは英国紳士服の伝統的な産地を見直すことなのだという。

 そうした感覚はメンズに限ったわけではないだろう。去年はレディースも含めて、高級ファッション全体の売り上げが前年に引き続いて伸び悩んだ。ヨーロッパの信用不安などによる景気低迷や、若い世代を中心とする「嫌消費」の傾向も影響しているだろう。だが、もっと素朴に考えられるのは、パリやミラノ、ニューヨークといった欧米発のファッションの新作がもっていた魅力が以前と比べて薄れてきたからなのではないか、ということだ。

 そう考えてみると、とりあえず新たな視点でもう一度注目してみるべきなのは、東京発のそれも若手によるクリエーションの最新のありようということになるだろう。欧米以外ということでいえばアジアやアフリカの地域・国でもよいのだが、ファッションの発信力という点ではいまのところ日本にすぐに匹敵できるところは考えられないからだ。

 そうした意味では、去年10月から12月に東京オペラシティーで、続いて神戸ファッション美術館で開催中の「感じる服考える服:東京ファッションの現在形」展はとても興味深く、時宜を得たファッション展といえるだろう。この企画展では、ファッションを欧米的価値観や美意識の流れにとらわれず、またこれまでのファッション展にありがちだったファッションとアートの関係についての固定観念にもとらわれずに、「ファッションとは何か?」という問いを多様に発しているように思えた。

 出展しているのは、東京を起点とする10組のデザイナーたち。展示作は完成された製品としての服にこだわらずに、それぞれのファッションに対する考え方とそれに基づくデザインのイメージを表現することに重点が置かれている。たとえば、長岡造形大学で建築デザインとテキスタイルを学んだ横山大介と荒木克記がデザインするメンズブランド、サスクワァッチファブリックスは、古着のレザージャケットや革パンツを解体して作り上げた実物大の馬や牛を会場内の5カ所に展示している。

 生々しいがどこか空虚な怪物のように見えるその姿は、せっかく作られた服がすぐに大量に消費されていくファッションの皮肉な象徴にも見える。だが同時に作り込むことで生まれる力強さへのオマージュとも受け取れる存在感も感じさせる。ここでも用いられている革素材の力強さは、エルメスなどの上品に飼いならされた魅力とは全く異なるもので、西欧以外の地域のネイティブな生活文化の中で用いられている革への視線が生み出したものなのだろう。

 アンリアレイジ(森永邦彦)は「基準の見直し」をテーマに、縦横の比率や太さなどが普通と思われている寸法とは大きく異なる形の服を出展した。そんな「規格外」の形は、服のデザインが人間の体をいかに無意識に前提として縛られているのかということに気づかせてくれる。この服が示しているのは、服は体の形をなぞるのではなくて、体についての既成観念をなぞってきたのだということである。

 すべて手縫いで少女の「かわいさ」を表現したような服を作るケイスケカンダ(神田恵介)は、四畳半の和室で「洋服」を描くというプレゼンテーションをニットやレースなどを型取りした樹脂で表現。h.NAOTO(廣岡直人)の30着の服をチェーンで吊るしたインスタレーションも、少女たちの不穏な欲望に寄り添うようなキッチュなイメージを表していた。

 すでに東京コレクションの主力でもあるミントデザインズやシアタープロダクツ、まとふ、ソマルタ、またテキスタイルの産地と連携した技術開発に取り組んできたミナ・ペレルホネンの出展作も、これらのブランドが欧米的な生産システムとは異なる文脈で作られていることを改めて確認させるものだった。そして、服作りを一見放棄したような破天荒なクリエーションをずっと続けているリトゥナフターワーズ(山縣良和)の、小屋の中で動物たちが新しい紙幣を秘密裏に織っているインスタレーションも特筆すべきものだった。

 こうした作品が突き付けているのは、ファッションの新しいクリエーションが服の完成度やエレガンスといったこれまでの基準から徹底して離れなければいけないということに違いないだろう。そのことを改めて確認することで、もう次の時代のファッションの形の可能性がすでに始まっていることが見えてくるのだと思う。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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