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2012年4月19日15時32分
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上間常正のアッと@モード

新たなグローバル展開を目指すICB

上間常正

写真:新作のショーから拡大新作のショーから

写真:新作のショーから拡大新作のショーから

写真:チーフデザイナーのプラバル・グルン拡大チーフデザイナーのプラバル・グルン

 オンワード樫山がこのほど、ニューヨークの人気若手デザイナーを起用した「ICB NY エクスクルーシブコレクション」をスタートさせ、この秋から国内と北米、中国などで発売する。国内の輸出産業の不振が続く中で、日本のアパレルブランドがグローバル展開によって活路を見だそうとする新たな取り組みの一つとして注目したい。

 「ICB」そのものは、もともと国際展開を目指して1995年に開発されたブランドだった。だが当時はまだ国内のアパレルマーケットが好調で、国内売り上げが重視されがちだったため海外での販売にはあまり手が回らず、2002年には海外戦略からも撤退した形となっていた。しかしその国内市場も長期的な売り上げ低迷に陥り、業界全体がこのままでは回復の見込みすら見えない状態となっている。今回のICBの「再挑戦」は、95年の時とは市場背景が全く異なる中での起死回生の打開策ともいえる。

 では今回の「グローバル」の意味は、95年のそれとはどう違うのか? オンワード樫山の鈴木完尚・ICB事業本部長は「マーケットの世界的な状況との時差をなくすこと」と語る。それは噛み砕いて言えば、ブランドの側から提案を押しつけるのではなくて、世界中の消費者がいまどんな服をどう着たいと思っているかを探ってそれにかなう服を提供しようということだと思う。ICBの主なターゲットは30代を中心とするキャリアウーマンだが、世界で働くその世代の女性たちの生身の生活スタイルをどうとらえるのかにつながるだろう。

 デザインを担当するのは、ミシェル・オバマ米大統領夫人や歌手のレディー・ガガ、女優のサラ・ジェシカ・パーカーらもその服を愛用することで注目されているプラバル・グルン。シンガポール生まれでネパールのカトマンズ育ち、インドの大学でファッションを学んだ後にアメリカに渡ってデザイン修業を重ねた、という異色の経歴をもったデザイナーだ。一見では優雅な服だが独創的な切れ味があって、その色使いやプリントの図柄にはどこかアジア的な懐かしさや緩さが感じられるのが特徴だ。

 東京・日本橋の三井ホールで3月下旬に開かれた「ICB NY エクスクルーシブコレクション」の披露ショーでは、全体としては黒を基調としたシンプルなテーラードのデザインだが、それとは対比的に有機的な不思議なプリント柄の柔らかくてフェミニンなドレスシャツ、そしてディテールでの繊細なレース使いや遊び心のあるファーのあしらいなどが組み合わされていた。厚底と高いピンヒールを組み合わせた靴も新鮮なアイデア感覚に富んでいる。

 デザイナーやパタンナーなどの企画チームはニューヨークに置き、品質の管理は日本で、生産は日本や中国などのアジア各国。海外での販売拠点は、まず北米で18店舗、次の2013年春夏物からはヨーロッパでも販路を広げる予定だという。こうしてみると、デザイナー自身も含めて生産態勢や販売網は確かに国際的で、それが服に新たなグローバル性を帯びさせることは事実だろう。しかし、そうしたグローバル性とは経済や金融の「グローバリズム」と同じようにどこか無国籍的な一抹の不安さ感じさせることも否定できない。

 地域に確かな基点を置いて共感の輪を世界に広げていく、というような意味での「グローカル」という言い方があるが、樫山の事業本部でも当然そのことは検討して踏まえているだろう。そうだとすれば、無国籍的な不安感を与えないためには、企画機能はアメリカだけでなくもっと世界各地に広げ、日本では品質管理だけではなくて強力な企画統合機能を担うというような工夫が必要なのではないだろうか。

 あるいはそうではなくて、経済のグローバリズムには実はアメリカの覇権意志が潜んでいると指摘されるが、ICBの今回のグローバリズムは客を第一に考えることで覇権意識のない新しいグローバリズムが可能だということを示しているのかもしれない。

 日本は世界のファッション大国だといわれるが、ファッションの分野では日本の輸入と輸出の比率は約50対1という超輸入超過の状態が長く続いていた。いずれにせよその意味では、日本のアパレルが海外市場を目指すのは大いに歓迎すべきことだ。しかもファッション産業というのは先進国が最も得意とする分野で、いわゆるBRICsなどの成長国がそう簡単には追いつけない産業分野なのだから。オンワード樫山には頑張ってほしいと思う。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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