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2012年12月22日16時14分
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上間常正のアッと@モード

東京発若手ブランドの、変化への芽 アンリアレイジ展

上間常正

写真:「○△□」(09年春夏)拡大「○△□」(09年春夏)

写真:「凹凸」(09年秋冬)拡大「凹凸」(09年秋冬)

写真:「WIDESHORTSLIMLONG」(10年秋冬)拡大「WIDESHORTSLIMLONG」(10年秋冬)

写真:「BONE」(13年春夏)拡大「BONE」(13年春夏)

写真:奥山由之の写真展示拡大奥山由之の写真展示

 経済と同じようにファッションも世紀末的な停滞が続く中で(衆院選での自民党圧勝もその憂鬱な結果の一つだが)、今年は、東京発の若手ブランドの中に新しい変化への可能性が育ちつつあることが確認できた年でもあった。今後も期待をもって注視すべき動向だろう。だが、彼らの作品はまだことさら騒ぎ立てたり仲間うちで褒め合ったりするほどのレベルに達しているわけではない。東京の渋谷パルコで今月25日まで開かれている、アンリアレイジのこれまでの代表作などを展示した初の展覧会「A REAL UN REAL AGE」を観て、その感を改めて強くした。

 アンリアレイジは、デザイナーの森永邦彦が中心となって2003年に設立したブランド。その年から毎シーズン続けて新作を発表している。このブランドのインパクトのある特色に気づいたのは、遅まきながらだったが、09年春夏の「○△□」(まるさんかくしかく)と題したコレクションだった。直径90センチの球体、一辺75センチの三角錐、一辺45センチの立方体。人間の体の形とは全く違うそんな3つのタイプの固形体に服が着せられ天井から吊るしてあった。そしてそれぞれ同じ服を着たマネキンが並べて置かれていた。

 この見せ方が示していたのは、デザインの出発点で人間の体を前提にしなかった、ということだ。体のイメージには、さまざまな既成観念の枠がはまっている。その制約から離れて服の形を自由に考えてみるためには、自然界にも純粋な形としては存在しないシンプルな形を選んだということなのだろう。それは結果として、ファッションの底に流れ続けている近代ヨーロッパ的な身体観を制約の一つとして相対化してしまう可能性にもつながる。

 09年秋冬の「凹凸(おうとつ)」は、前・後・横の三面図のデザイン画で作った、極端な奥行きを持った服。11年秋冬の「WIDESHORTSLIMLONG」では、太くて小さいマネキンと細くて丈の長いマネキンに同じ服を着せた。最新作13年春夏の「BONE」は、服に骨があると仮定してその骨格を服の表面上に露わにしたが、それも一連の同じ発想による試みだろう。だがどのシーズンの服も、人が着ればそれほど突飛でもない形になるようなパターンや素材選びの配慮がされている。

 この試みは相当骨のある実験的なやり方なのだが、できた服はどれもどこか子供っぽいような自由な好奇心とユーモアを感じさせるのがこのブランドの大きな特色だ。それは正統と闘う勇ましい前衛派というよりは、子供のような夢想者という方がふさわしい。子供の夢想家は、大人が作ってしまった社会や時代が行き詰った混迷の時に、しなやかでしたたかな先導者になる可能性を秘めている。

 「何の変哲もない」「檸檬」「バター」などと題した、言葉で表現されたイメージを服の形にしようとした初期の各コレクションでも、既成の身体観とは違うところから始めようとの意図では一貫していた。この時期の作品で特によくうかがえるフェミニンとも可愛らしいとも映る一種の美しさも、このブランドの服の長所の一つだ。ディテールを効果的に作り込む資質があって、それが過剰感を与えることはない。こうした資質は、川久保玲や広い意味では三宅一生とも連なるといってもよいだろう。

 アンリアレイジの見所というべき特色はこの二つだが、どちらにせよ服の完成度というような意味ではまだ道遠しというレベルでしかない。コムデギャルソンやアンダーカバーがすぐ思い浮かぶような服も少なくはない。三宅や川久保の服がパリ伝統のエレガンスへの対抗軸になるインパクトを持ち得たのは、それを支える服としての質の高さがあったからだ。そこまで達するかどうかはまだ今後の課題というほかない。

 子供っぽい好奇心や自由な発想力という意味では、森永の早稲田大学の先輩で彼と親しい神田恵介の作品の方がより自覚的に先行しているとの印象を受ける。ただし服としての完成度や美しさ(それがビジネスとしての必要な基礎にもつながるのだろうが)という面でいえば、アンリアレイジの方が一歩リードしていることは確かだ。

 また、ついでに特筆すべきだったのは、会場に展示されていた奥山由之の写真だった。アンリアレイジの作品から感じ取ったものを、一瞬の動きや光、意表を突くデフォルメや省略によって鋭く、しかもとても個性的な表現として浮き上がらせていた。だが、このようなフォトグラファーを起用したセンスもアンリアレイジの才能の一つともいえるのだろう。

 こうした若手の才能や現段階での作品に対して自戒すべきなのは、一見意味ありげだがその実は表層的な言葉で飾り立てたり、必要以上に褒めてみせたりすることだろう。そうではなくて、なるべく素直に理解しようとしながらも足りないところは厳しく指摘して、彼らの大きな可能性を信じて見守り続けることなのだ。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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