2010年7月1日13時11分
10万円を超えるような男性向けビジネスシューズがヒットした“靴バブル”は、ここにきて一段落したように見える。
「革のにおいでクオリティーを確かめたり、左右の靴色の個体差を気にしたりするような靴フェチともいえるお客さまは、さすがに減りました」とは、ある高級インポート靴のプレス担当者の言葉。ただ、そういったブームは、靴が着こなしの善しあしを決める重要なアイテムであるという意識の向上を男性にもたらしたことは間違いないようだ。
「三陽山長」は、前身である「山長印靴本舗」から数えて今年で10周年を迎える紳士靴のブランド。世界標準を目指すべく生まれた日本発のビジネスシューズの頂点として、靴マニアの間ではよく知られている。高級インポート靴と比較すると価格は抑えめながら、英国靴の伝統的な作り方であるグッドイヤー製法の靴を中心にラインナップ。ブランド設立当初より用いられている定番ラスト(木型)「R201」を進化させた「R2010」を使ったストレートチップ(58,800円)が今年の春から売り出され、ヒット商品になっているようだ。「日本人の足の形を研究し尽くした履き心地です」と、担当者は語る。2010年秋冬からは、ストレートチップに加えて、チャッカブーツ(65,100円)などもバリエーションに加わる。
40年以上にわたって靴業界で企画・生産・輸入などを手掛けてきた重鎮の長嶋正樹氏に、この展示会でお目にかかった。実は「三陽山長」も、元をただせば彼が生み出したブランド。「製法やラストはもちろん、素材にもこだわっています。イタリアのトリノにある、世界でも有数の名門タンナーがなめした革を使っていますが、今シーズンは現地まで足を運んで革を買い付けました」という長嶋氏。これまでも同じタンナーに革を発注していたものの、クオリティーのバラつきが気になることもあったという。「靴やかばんをつくっているヨーロッパの有名メゾンに、なめしのクオリティーのいい革がまわってしまうのは仕方ないと思うんです。日本から発注する我々に比べて、そういったブランドの担当者とは日頃から顔を突き合わせているんですから。そこで今回は、現地を訪ねて三陽山長の靴へのこだわりをタンナーに直接話して、自分の目で素材を確かめたので、これまで以上にいいクオリティーの革を調達することができました」。商売の基本は“フェース・トゥ・フェース”。これは、どんな時代でも変わりないようだ。
最近の展示会で気になった靴を、もう一つ。山系ファッションの人気を背景に、アウトドアシューズがいくつかのブランドから提案されているが、なかでも出色は、スイスの老舗(しにせ)ブランド「バリー」のものだろう。厳しい寒さに耐えるハイキングブーツやスキーブーツは、ブランドの得意アイテムの一つ。数あるアーカイブの中から、エドモンド・ヒラリー卿がシェルパと共にエベレスト登頂時に履いた1950年代のマウンテンブーツ(124,950円)が復刻して発売される。素材やディテールは現代的に進化しているが、本物のエピソードを持つ、こういったアイテムは男心をくすぐるはずだ。
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2010年夏号 Vol.7
ニッポンの暑さに負けないビジネススタイルを提案します。