2010年9月2日11時8分
スーツのパンツは、裾を折り返す「ダブル」仕上げ(写真左)が望ましい。折り返し幅は、4〜4.5cmが基準。
ソックスは目立たせないことが原則。ネイビーかグレーで、靴の色ではなく、パンツの色に揃える。
すね毛を見せないように、ひざ下丈を選びたい。薄手リブ編みの無地ソックスが基本。
腕利きとして知られている銀座のお直し屋さんで、スーツのパンツの裾(すそ)上げをしてもらった。足元にしゃがんで折り込んだ裾にピンを打ちながら、担当者はこう尋ねてきた。「ノーブレークでいいですか?」
少し前なら、「ワンブレークでいいですか?」と尋ねられることがほとんどだったように思う。ワンブレークとは、パンツの裾が靴のひもを隠す程度に少しだけたるみがある状態のこと。パンツ丈が短いのは、みっともないので、ほんの少し長めのワンブレークに仕上げるのがエレガントといわれてきたのだ。では、なぜ冒頭のお直し屋さんは「ノーブレーク」を推してきたのだろうか。
サイズ選びが、スーツの着こなしの美しさを左右することは間違いない。特にここ数年は、その意識が改めて強くなっている。イタリアの老舗(しにせ)サルトもアメリカの有名ブランドも、コンパクトなシルエットと適度にフィット感のあるスーツに力を入れてきている。イタリアの服飾工房に研修に行くこともあるという銀座のお直し屋さんの担当者が、「少し長めのワンブレーク」ではなく「ジャストサイズのノーブレーク」を勧めてきた背景には、スーツのこんな潮流があるのだと思う。
確かに、いまだに少し大きめのスーツを着ているバブル世代のビジネスマンを見ると、「ワンサイズ小さめを選ぶだけでカッコよくなるのになぁ」と感じてしまう。が、しかし。あまりにトレンドに敏感すぎるのも、また考えもの。「主張しないこと」も、ビジネスウエアを着るときの大切なルールの一つである。この考えにのっとれば、スーツのパンツの裾については、いまもワンブレークのダブル仕上げがエレガントであると個人的には考える。
みじんも変わらないと思われている、スーツの着こなしルール。しかしながら、このように時代とともに変化するもの、変化しないものがあるのだ。
足元でいえば、ソックスの選び方も重要。スーツに白いソックスやスポーツ用のワンポイントものは論外だが、意外と見落としがちなのがソックスの丈である。すねあたりまでくる長さのものをはいているビジネスマンがほとんどだと思うが、これだと足を組んだときなどにすね毛を見せてしまうことになる。
こうなると、エレガントさや着こなしルール以前の問題、マナー違反といっても過言ではない。ホーズといわれるひざ下丈のソックスを選ぶ。これは、昔もいまも不変のルールである。色は目立たぬことをよしと心得、スーツに合わせてネイビーやグレーを選びたい。
アエラスタイルマガジンの最新号では、こういったスーツの着こなしルールを50個にわたって紹介している。「スーツのいちばん下のボタンは留めない」といった具体的なルールから、「着るも仕事のうちと心掛ける」といった精神論まで。その中でも、撮影スタッフからも「へぇ〜」と驚かれたワンポイントルールを最後に披露しておこう。
パンツのウエスト前部分にある小さなループの使い道。これを知らないビジネスマンは、案外多いようだ。ベルトのピンを通してベルトとパンツを固定するパーツで、これを使うとパンツがずり落ちにくくなり、ウエストもすっきりと見える。いますぐに日々の着こなしルールに加えて、活用してみてはいかがだろうか。
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撮影/Yoshihiro Kawaguchi(ANARCHIC AGENCY),Takashi Nishizawa(REV INC.)
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2010年秋号 Vol.8
「The HANBOOK of BUSINESS STYLE」 2010年版 着こなしの教科書