2011年1月6日
スーツを着こなすときに、トレンドに敏感になり過ぎるべきではない。このコラムでは、繰り返し、そのようにお伝えしてきた。ピチピチなタイト・ジャケットを着たり、極端にナロー(細身)なネクタイを身につけたり。“ファッショナブル”であろうとするそのような心掛けは、ビジネスの場では、ときに見苦しい場合もある。
では、カジュアル・シーンでの着こなしはどうだろうか。スタイルを確立した洒落者の男性であっても、新しいアイテムを適度に取り入れて流行を楽しむことを忘れてはいけない。ただ、メンズ・ファッションに、ここ数年、大きなトレンドが登場していないのもまた事実。ワークやミリタリーといったトレンドは続いているが、もはや目新しさはない。
ところが、2011年春夏ファッションの展示会を見ると、“マリン”の流行が久しぶりに大きなウネリになりそうだ。ボーダーシャツ、クロップドパンツもしくはショーツ、デッキシューズといった着こなし提案を、あちらこちらのブランドが仕掛けている。
なかには、60年代の映画「太陽がいっぱい」をモチーフにしたコレクションを発表した展示会もあった。劇中のアラン・ドロンのようにヨット遊びに興じられる男性は、実際にはそれほど多くはないだろう。それでも、陰鬱な気分が続いている今の時代だからこそ、キラキラとした楽しい場面をイメージさせる“マリン”というキーワードは、多くの人から「そう、これこれ」と受け入れられるポテンシャルを持っていると思うのだ。特徴である白×青×赤のトリコロール・カラーの色づかいも、黒やアースカラーのアイテムが多かったここ数年の中では、はっきりと違いが際立つ。
まずは、デッキシューズやトートバッグといった、誰しもが通ってきた馴染みのあるアイテムを手にとってみて欲しい。スリップしない靴底や防水加工のキャンバス素材といった機能は、昨今の素材開発競争で更に進化し、その上でちょっとしたフォルムや色づかいが今っぽさを感じさせてくれる。
例えば、イタリアのラグジュアリー・ブランドであるトッズは、大ヒットしたドライビング・シューズの技術を、デッキシューズ“マルリン”(写真3)に投入。上質なレザーが足を包み込み、返りのいい柔らかいラバーソールとあいまって抜群の履き心地を誇る。
ペニーローファーで一世を風靡した歴史を持つコールハーンも、基本のネイビーにグリーンやブラウンをカラーミックスした“エアヨットクラブボート”(写真4)で、履く楽しさを強調している。春先の旅行に出かけるときにはもちろん、週末の街履きにも活躍してくれるはずだ。
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2010年冬号 Vol.9
「The HANDBOOK for BUSINESS STYLE」 2010年版 ビジネスマンに贈る仕事の名品108