2011年2月3日
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ハンドメード。多くの男性は、この言葉に弱いもの。ショップでファッションアイテムを探しているときに、店員さんから「ハンドメードですよ」とつぶやかれると、それが決め手になることも多い。買い物の予算との兼ね合いを心配しながらも、職人が一つ一つていねいな手作業で作りあげていく場面に思いをはせると、その“モノ語り”込みで購入したくなるのだ。
「マッキントッシュ」は、ゴム引きコートの代名詞として、日本のビジネスマンにも人気が高い。そしてそのブランド名が刻まれたタグには、“Genuine Handmade(本物の手作り)”という文字が添えられている。スコットランドの「マッキントッシュ」工場を訪ね、ハンドメードでコートがつくられる現場を見る機会を得たので、リポートしてみたい。
ロンドンから1時間30分ばかり飛行機に乗り、降り立ったのはエディンバラ空港。工場のあるグラスゴーまでは、さらに車で1時間ばかりを要する。そもそもマッキントッシュの歴史は、この地グラスゴーのチャールズ・マッキントッシュが、2枚の生地の間に溶かした天然ゴムを挟む防水布(=マッキントッシュクロス)を発明したことにさかのぼる。油を綿にしみ込ませたオイル引きコートしかなかった時代に、この新しい素材は高い評価を獲得し、その機能性から、英国の陸軍や国鉄のためのコートをつくっていたこともあるほど。
工場に一歩入ると、ハンドメードの言葉に偽りなしということがよくわかる。スコットランドの武骨な男たちが、黙々とコートづくりの作業を続けているのだ。縫い目から雨がしみ込むのを防ぐために仕上げていく工程が、「マッキントッシュ」の真骨頂。自らの指を使って、接着剤をギュツギュッと伸ばす。共地の防水テープを貼る。2種類のローラーを使い分けながら、乾かし、はみ出した接着剤を取り去っていく。一連の作業の潔い様子を見ると、感動すら覚えてしまう。一つ一つを職人の手作業で行うために、限られた数しか生産できない。その一方で、昔から変わらないこの作業で生まれる独特な風合いが、世界中の本物志向の人たちに支持されているのだ。
そしてこの「マッキントッシュ」、1月20日に世界初の旗艦店をロンドンにオープンさせた。「マーク ジェイコブス」や「ゴヤール」といった人気ブランドがショップをオープンさせて注目が集まる、マウントストリートという高感度なエリア。老舗ブランドのさらなる進化に、注目していきたい。
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2010年冬号 Vol.9
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