2011年5月26日
ブランドとは、なんぞや。改めて考えてみた。「brand」の語源は、焼き印を押すという意味の英語「burned」であるといわれている。牧童が自分の牛を他人の牛と取り違えないように焼き印を押す。あるいは、刀剣や陶器の作者が作品に名前を刻む。そうした行為は、他に代わるモノがないことに価値を見出す現代のブランドビジネスと、確かに通じるところがあるように思う。
ホンモノを求める時代の要請か、各ブランドは再び自らのアイデンティティーを見つめ直し始めている。展示会や発表会をまわっていると、「過去のアーカイブにあったアイテムを進化した製法で復刻しました」とか「素材の産地にこだわって、更にオリジナリティーを追求しました」といったプレゼンテーションを聞くことも多い。
アメリカの人気ラグジュアリーブランドCOACH(コーチ)は、可愛いデザインのバッグで日本の女性にもファンが多い。コーチが1941年にニューヨークで革工房をスタートさせた時、野球のグラブからインスピレーションを受けて開発した極厚レザーのバッグが男性から熱い支持を獲得したというルーツを知る人は、それほど多くはないだろう。創立70周年を迎えて、そのグラブタンレザーを再現しさらに進化させたソフトポートレザーという素材を使った商品が登場。まずは、ベースボールグローブ、ベースボール、ダッフルバッグの3アイテム。こちらは5月31日から順次、限定ストアとコーチオンラインストアでチャリティアイテムとして発売され、売上げの100%が日本赤十字社を通じて東日本大震災義援金として寄付されるという。続いて7月には、クラシックなレザーの風合いを活かしながら、ミニマルなデザインで現代らしさを表現した“ブリーカーレガシー”コレクションが店頭に登場する。オイルとワックスで仕上げられた表面のつやが実に美しい。
日本を代表するバッグメーカーであるエースが手掛けるultima TOKYO(ウルティマトーキョー)は、メード・イン・ジャパンにこだわった商品を提案してきたブランドだ。今年の秋冬のコレクションでは、更にこだわりを深め、日本各地から革素材をセレクト。栃木でなめされた革をつかった“テレス”というシリーズは、植物の樹皮、根、葉などから抽出した植物タンニンを溶かした槽で約3週間浸された牛革が独特のムラ感で、いい味を出している。他にも、東京の墨田区でなめしたスムーズな豚革の“クリスト”、兵庫県の龍野でなめされたソフトな牛革の“レヴァン”などをラインナップ。いずれも、生産地による革の特徴を存分に生かし、同時に現代的なデザインが共存する逸品だ。
素材や製法、そしてなによりも、モノの背景にある物語。それぞれのブランドが、伝統と進化を併せ持った“焼き印”を押していく姿勢に、引き続き注目していきたいと思う。
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2011年夏号 Vol.11
節電対策クールビズ特集号