アウトドアブランドのウエアは、ファッションのトレンドと関係なく常に人気が高い。機能から考えられた、理由のあるデザイン。タフな用途に耐え得る丈夫さ。こういったところが、いつの時代も男性のブツ欲を刺激してやまない。
例えば、創業180周年の老舗アウトドアブランドのウールリッチ。バッファローチェックと呼ばれる赤×黒の格子柄アウターが有名だが、もとを辿れば狩猟の際にハンター同士の誤射を防ぐために開発されたものだという。
20年ほど前に、アメリカ北東部、五大湖周辺のアウトドアブランドのファクトリーをいくつか取材したことがある。なかでもウールリッチを訪ねた記憶は鮮明だ。ペンシルバニアのウールリッチタウンという名を持つ森に囲まれた町に、本社とファクトリーの他にあるのは、ウールリッチ郵便局とウールリッチストアが一軒だけという印象。取材後、社員や町の人たち向けのアウトレットになっているこのストアに立ち寄り、バッファローチェックのアウターを購入したものだ。
ウールリッチの歴史は、イギリス移民のジョン・リッチ2世が、ペンシルバニアのプラムランにアメリカ初といわれる毛織物工場(ウーレン・ミルズ)を設立した1830年にさかのぼる。当初は馬車で野営地を転々としながら生地を売り歩いていたが、1845年にプラムランから約2.4キロ離れた現在の場所に移転し、そこがウールリッチタウンと呼ばれるようになった。ブランケットやソックスなどのウール製品は、西部開拓時代のフロンティアたちの必需品として評判を呼び、南北戦争中には北軍のためのブランケットを製造。その後、ハンター用ジャケットのヒットなどもあり、「羊毛から製品までの一貫生産を行える信頼ある会社」としての地位を築いた。
そしてここ数年、ウールリッチは大きく進化を遂げている。
イタリアのファッションをリードするWPラボリ社とタッグを組み、「ウールリッチ・ウーレン・ミルズ・コレクション」という新たなラインも開発。1960年代までのビンテージ商品のタグにあった“Woolen Mills”という表記を名に冠していることからもわかる通り、アメリカらしい質実剛健な機能美を継承しながら、同時にフォルムやサイズ感にヨーロッパ的なモードの香りを漂わせたデザインが特徴だ。
さらに驚くべくは、2006年にこの新プロジェクトをスタートしたときのクリエイティブディレクターを、アメリカで活躍する日本人デザイナーの鈴木大器が務めたこと。鈴木氏は自身のブランドであるエンジニアド・ガーメンツのクリエイティブが評価され、2008年にUS版GQ誌とアメリカファッションデザイナー評議会が主催した第一回ベスト・ニューメンズウエアデザイナー・イン・アメリカのグランプリを受賞している。アメリカのブランドが生産拠点を中国や中南米に移すなか、「日本人がつくるMade in USA」を標榜するエンジニアド・ガーメンツは、アメリカ国内の古い工場を探し、伝統的なモノづくりにこだわってきた。鈴木氏は、渋谷のセレクトショップとして人気の高い、ネペンテスのバイヤーとして1989年に渡米したところからアメリカでの活動をスタートさせ、いまもネペンテス・アメリカの代表をつとめている人物である。
アウトドアやワークウエアをミックスして着こなす独自な解釈のアメカジは、1990年代初頭に渋カジと呼ばれて一大ブームとなった。アウトドアファッションが洗練化していく昨今の傾向のルーツに、渋カジあったと見立ててみると、実に感慨深いものがある。
ちなみに「ウールリッチ・ウーレン・ミルズ・コレクション」は、2011年秋冬から、ディレクターを鈴木大器からマーク・マックネイリーに交代。彼もまた、「バス」や「ウォークオーバー」といったアメリカの老舗靴ブランドのモダナイズを手掛けてきた新進デザイナーであり、さらなる進化が期待できる。もちろん、アウトドアウエアをモダナイズさせるこうした取り組みはウーレン・ミルズ・コレクション以外の通常ラインの製品群にも色濃く投影されており、ますます目を離せないブランドとなっている。
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2011年冬号 Vol.13