映画『ティファニーで朝食を』のユニオシを始めとして、昔のハリウッド映画に登場する日本人といえば、決まって七三のヘアスタイルに黒縁の眼鏡。調べてみると、日本の眼鏡人口は6000万人以上ともいわれている。なんと、二人に一人が眼鏡という割合である。
私自身、眼鏡デビューして20数年になる。これまでに、何本の眼鏡と付き合ってきただろうか。ツーポイントと呼ばれるフチのないもの、シャープな印象のブロウタイプ、ユーモラスなオーバル型セルフレーム、プレートチタンの軽量眼鏡……。そしていまメインで使用しているのは、黒縁のウエリントンタイプだ。カジュアルなジャケットを着ていても、眼鏡でカチッとした印象に引き戻せるのが気に入っている。
じつは、日本製の眼鏡のほとんどが、福井県の鯖江市で作られているのをご存知だろうか。
人口7万人に満たない北陸の小さな市でありながら、国内シェアの9割以上を占めるというから驚く。明治38年に「眼鏡産業の父」と呼ばれる増永五左衛門が、農閑期の副業として、少ない初期投資で現金収入が得られる眼鏡作りに着目し、大阪や東京から職人を招いて村の若者に技術を習得させたことが始まりといわれている。金型、切削、メッキ、研磨などの作業を分業することでスペシャリストが生まれ、いまや高品質で世界にも知られる眼鏡の一大産地となった。その確かな技術力は、高いクオリティーでブランドからも信頼されている。
999.9(フォーナインズ)は、1995年に生まれた純国産の眼鏡ブランド。日本人の骨格を研究したデザインと、精密機器といってもいいパーツづかいで、その掛け心地は格別である。
まず、フロントとテンプルの接続部に使われる逆Rヒンジと呼ばれるパーツ。これはフォーナインズの多くの眼鏡につかわれ、使用時の負荷を解消し、フレームの歪みや型崩れを防いでくれる。次にS−320Tシリーズに搭載されたレイヤードブロウ構造は、フロント部分で負荷を吸収し、頭部を包み込む形状のテンプルと連動してフィット感を高める。さらにS−130Tシリーズのダブルフロント構造は、レンズへの負荷を軽減しながら立体的なデザインを実現。そしてS−900Tシリーズは、蛇腹形状とプラスチックを組み合わせたテンプルで、優れた掛け心地とサイドのデザインの表情を両立させている。
ちなみに、これらのモデルは累進レンズと呼ばれる境目のない遠近両用レンズにも対応しているので、老眼が気になり始めた40歳台のビジネスマンにもオススメしたい。
ちまたでは、廉価を売りにした眼鏡の人気も高い。いくつも購入して、シーンや気分によって掛け分けるのもいいけれど、お気に入りのいい眼鏡一本とずっと付き合っていくスタイルが男らしいのではと、最近は思っている。
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2011年冬号 Vol.13