「男のお洒落は、靴で決まる」。そのように熱く語るファッション関係者も多い。「いやいや、ビジネスウエアでいちばん重要なのはサイズ」と反論しかけて、ふと考えてみる。サイズが守備の要だとすれば、確かに、靴は攻撃の決め手といえるかもしれない。つまり、靴でその男性のお洒落度やキャラクターが見えてくるのだ。
「ギョーザ靴を履くようになったら、オジさんになった証拠」。そんな揶揄をよく聞くが、最近では“パン靴”と名づけたくなる、フカフカに見える丸っこいシューズを履いているオジさんをよく見かける。おそらく、ビジネスウエアのカジュアル化にともない、初めてジャケットスタイルにトライした男性諸氏が、「スーツで履いていたこれまでの靴は合わないので…」と選んだビジカジ靴が“パン靴”だったと推察される。
ジャケットのときは足元も軽やかに、という心意気は間違っていない。そこで、そういったときにオススメしたい靴をご紹介しよう。2012年春夏ものの新作シューズの展示会では、いくつものブランドがウイングチップをイチ推ししていたのが印象的だ。アメリカでウイングチップ、英国ではフルグローブと呼ばれるこの靴の最大の特徴は、つま先に翼のような形状で並んだメダリオンという小さな穴飾り。そもそもこのメダリオンは、靴の水切りや通気性をよくする目的があったといわれている。いまとなってはそういった機能はないが、メダリオンのデザインで足元に表情が出て、ジャケットスタイルによく合う。
ECCO(エコー)のウイングチップ(写真1)は、靴ひもを通す鳩目が甲に乗っかった外羽根式。茶色のスウェード素材とあいまって、かなりカジュアル度数の高いシューズだ。デンマーク生まれのエコーは、アッパーとソールを一気に圧着成形するダイレクトインジェクション製法で名を馳せたブランド。履き心地のよさで定評があるので、外回りの多いビジネスマンにもオススメできる。さらに足元をカジュアルにしていくなら、アッパーの部位で色や素材に変化をつけたコンビのウイングチップという手もある。バリー(写真2)はビブラム社のラバーソールを装着、コール ハーン(写真3)はインソールにナイキエアを搭載しているので、こちらの履き心地もお墨付きだ。
ビジネスの靴がここまでカジュアルになってくると、さて週末には何を履けばいいのだろうか。再び2012年春夏の新作靴から回答を求めるならば、マリンテイストのシューズを選ぶのが正解。トッズは、一歩先んじて2011年の春夏に“マルリン”というデッキシューズをヒットさせたが、2012年春夏の新作(写真4、写真5)では、ノーマルタイプもハイカットも色のバリエーションが増えて、選ぶ楽しさがさらにアップしている。バリーからも、デッキシューズが充実のラインナップで登場。中でも、このブランドのアイコンであるストライプをデザインのアクセントにした逸品(写真6)がヒットしそうな予感。ニッポンのこだわり靴ブランドである三陽山長は、春夏の定番として“葉山”というデッキシューズのシリーズを持っているが、その兄弟シリーズ“鎌倉”を新提案。かかとのないミュールタイプながら、コインストラップ部分を移動してかかとをホールドする、遊び心のあるデザインが面白い。
ビジカジはウイングチップで足元にアクセントを、週末はソックスを履かずにマリンテイストで涼しく。いずれにしても、靴が来春の着こなしのポイントになってきそうな気配だ。
朝日新聞出版・新事業開発チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2011年冬号 Vol.13