窮屈な着心地であっても、スタイリッシュでありたい。そう考える洒落者は、もはや少数派。昨今のビジネスウエアを見ていると、「コンフォート」という流れがメインストリームとなった感もある。例えば、肩パッドや芯地を外したアンコンジャケット。登場したときはビジネスにはちょっと…と思われたが、いまではすっかり定番アイテムとなった。快適な着心地は、いちど味わうと手放せなくなってしまうものだ。
特に猛暑に節電が重なってくる日本のビジネスマンにとって、ただネクタイをはずしただけでは、快適に過ごすことは難しい。スーパークールビズの掛け声が今年も発せられるひと足先に、「コンフォート」でかつ「スタイリッシュ」な高機能アイテムを紹介していこう。
昨夏、がぜん注目を集めたのがクールマックス(R)素材。溝をつけられた繊維の表面に沿って起こる毛管作用で、吸水速乾に優れ、ドライな着心地が保たれる。開発当初はスポーツウエアや下着の素材として認知されていたが、いまでは「快適」を求めるビジネスウエアにも使われるようになったのだ。 マッキントッシュ フィロソフィーのトロッタージャケット(写真1)は、夏を待たず購入したいオススメの一着。表生地に加えて、袖のライナーにもメッシュタイプのクールマックス(R)を用いて、半袖シャツを着たときの通気性も確保している。さらには、UVカット、遮熱加工、ウオッシャブル、見返しと汗止めパーツに抗菌防臭加工と、考えうる盛夏対策の機能を全部盛りにしたジャケット。肩パッドの代わりに胸増し芯を肩まで回すなどの工夫で、カジュアル過ぎない立体的なフォルムを保っていることも見逃せないポイントだ。
ドレスシャツと見まがうアントニオ・ラヴェルダのシャツ(写真2)は、実はジャージー編み。スポーツアイテムで立証済みのストレッチ機能は、着心地の快適さばかりでなく、着用時のスマートなフィット感を生み出す。洗濯後にシワが残りづらく、アイロンがけが不要というメリットもうれしい。
コンフォートジャケットのボトムスとして、第一候補になるライトグレーのパンツ。イタリアのパンツ専業メーカーであるインコテックスの「撥水加工ウール」パンツ(写真3)なら、汗や汚れも付着しにくく、夏に活躍してくれそう。テーパードの効いた、メリハリのあるシルエットが美しい。
単色のシンプルなカーディガンは、春先の少し肌寒いときや、ジャケットスタイルのVゾーンに変化を付けたいときに重宝するアイテムだ。デザインワークスの「速乾」カーディガン(写真4)は、やはりクールマックス(R)素材を使用。重ね着で微妙に汗ばんだときに吸水速乾機能が作用して、サラサラとした着心地が維持される。
アウトドア用のアイテムで評判の高い防水透湿機能の生地を用いたのが、ダーバンの「ゴアテックス(R)」コート(写真5)。軽い着心地と汎用性の高いバルカラーのデザインで、梅雨どきに活躍してくれそうだ。更にはコートの内ポケットに折りたたんで収納することができるから、天気のあやしい日にはビジネスバッグに携帯しておくのもいい。
モダンブリティッシュを代表するブランド、ティモシー エベレスト ロンドンの「モヘア混ストレッチ」スーツ(写真6)もオススメしたい一着。モヘア×ウール素材は独特の風合いと光沢があり、通気性と耐久性に優れていることもあって、盛夏用の生地として人気が高かったものの、伸縮性のなさが欠点だった。しかしこのスーツは、最新のテクノロジーでストレッチ加工を施すことで、凛とした風合いと着心地の良さを両立させている。
実はこの素材を手掛けているのは、日本を代表する生地メーカーとして知られる日本毛織(通称ニッケ)。イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドと共に、織物の世界3大産地と称される尾州に明治29年に創業された老舗である。木曽川がもたらす豊かな水源と肥沃な土壌が育てた、愛知県・尾張一宮エリア一帯の織物技術は、こうして世界のブランドが作るビジネスウエアを進化させているのである。
朝日新聞出版・カスタム出版チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2012年春号 Vol.14