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久しぶりのアメリカ出張で、ニューヨークを訪れた。そこでなによりも驚かされたのは、男性がお洒落になっていたことである。何度となくこの街を訪れてきたが、「カルチャーやトレンドで世界を牽引していても、街行く人たちの着こなしはそれほどお洒落ではない」というのが、これまでの印象。ファッションに気を使っているといっても、いまだにグラマラスなシルエットのスーツを着たエグゼクティブか、もしくはモノトーンで身を包んだモード好きクリエイターというスタイルばかりが目立っていた。それが今回の取材では、見事にイメージが一変させられた。装いのシルエットはコンパクトに、そしてアイテムはクラシックなものの人気が復権している。
まずは、写真1の男性を見て欲しい。ツイードジャケット、BDシャツ、デニムパンツといったベーシックなアイテムを使った着こなしだが、緩めに結んだストライプのタイでエレガントさをプラス。コーディネイトする色をベージュ〜ブラウン系とネイビー系に絞っていることが、大人っぽくまとめることに効果を発揮している。
写真2の男性は、全体のシルエットが絶妙。ツイーディな素材のアンコンジャケットを、短めの丈で体にピッタリと着こなす。デニム素材のキャップ、首元のストール、肩に背負ったリュックに至るまで、キュッとコンパクトにまとめることを心掛けているようだ。チラリとのぞくシャツとパンツは、グリーン×レッドで色合わせ。
写真3は、ヘリンボーン柄のツイードジャケットにダンガリーのシャツ。こういったカントリーライクな着こなしは、ひと昔前のニューヨークではなかなか見かけなかったタイプといえる。胸元から肩、そしてひじに配されたレザーパッチは、ハンティング用のジャケットに使われるようなクラシックなディテールである。
写真4も、またまたツイードジャケット。さりげなく襟を立てて、自分らしさを主張している。この男性に顕著であるが、グルーミングに気をつかっているのも昨今のお洒落ニューヨーカーの特徴だろう。7:3でキリリと櫛を入れたヘアスタイルに、一見無精のようでいてキチンと手入れをされたヒゲ。男性は男性らしく。そういった従来の価値観が、復権しているようにも見える。
かたや写真5の男性は、ビチッと7:3のヘアスタイルでありながらも、全体のシルエットはフェミニンな雰囲気でまとめている。ボーダーのシャツに、ボーダーのカーディガン。ダブルブレストの薄手のコートをさらりと羽織った優しげなシルエットが、彼のキャラクターを上手に表現しているように思う。ストールから、デニム、スニーカーに至るまでを、すべてネイビーのワントーンでまとめた上品なコーディネイト。
実は今回のファッションスナップは、ニューヨークの人気のデザインホテルACE HOTEL前で撮影を行った。ここにお洒落な男たちが集まる理由のひとつは、おいしいコーヒーが飲めるスタンプタウンというカフェが併設されていること。そういえば、スナップ撮影したお洒落な男性のほとんどが、コーヒーカップを手にしている。実は写真6の男性は、そのカフェでコーヒーをつくるバリスタの一人。帽子をかぶることが、このカフェの唯一のドレスコードといい、彼もまたお洒落を存分に楽しんでいる。グリーンのニットのVネックから赤いチェックのシャツを見せ、ボウタイを締める。セルフレームの眼鏡やヒゲとあいまって、時代を超越した味のある雰囲気を醸し出している。
ACE HOTELのロビーラウンジ(写真7)は、コーヒーを飲みながら読書に耽ったり、PCを使いながら過ごしたりといった人で溢れ、実にコージーな雰囲気。ブランドに惑わされることなく、また必要以上にトレンドに頓着せず、自分の個性を活かす着こなしを楽しむ。これが、いまのニューヨーカーのスタイルのようである。
朝日新聞出版・カスタム出版チームeditor at large兼 アエラスタイルマガジン編集長。
男性ファッション誌「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などの編集を手掛けた後、2008年4月の会社設立と同時に朝日新聞出版に入社。ニッポンのビジネスマンに着こなしを提案する季刊誌「アエラスタイルマガジン」を、クロスメディアで展開している。
2012年冬号 Vol.17