少し前、ヘアデザイナーのヴィダル・サスーン氏が亡くなって、氏のことを何にも知らなくても、シャンプーや整髪料なら使ったことのある人はかなり多いのじゃないかと思う。
何でも「女性のショートカットを生み出した」というのを聞いて、中学・高校時代をショートカットで過ごしたことを思い出し、そして今でもショートカットの魅力的な女性はわんさかいて、女性がスカートを履くくらいショートヘアってほとんど所与のものくらいに思っていたけど「ああ、サスーン氏の提案の延長にあったもろもろだったのだな」と思うと、ほのかな感謝と遙(はる)かな気持ちがうっすらこみあげてもくるのだった。
その関連で、映画「プラダを着た悪魔」も思い出す。舞台は最高峰のファッション雑誌編集部。見習いの冴(さ)えない女の子が、プロたちの細かなやりとりに「いい大人がそんなに躍起になって」と思わず笑ってしまうシーンがある。
そこですかさず、流行の権化である編集長は「あなたが今、なにげに着てるその化繊のセーターのブルーが大量生産されたのは、**年に私たちが作った流行の果てにあるのよ」的な内容でもって、一笑に付す&論破するのが印象的だった。さっきあなたがバカにした私たちの仕事の影響を受けて、今のあなたのチョイスがあるのよ、と。
今日の女性のショートヘアも、下着も、そしてスカートもまたしかり。もちろん社会に生きてる以上、常に何かしらの影響を受けているのは当然だけど、しかしこうやって改めてなじみのあるもので再確認すると、よくわからないけどちゃんとしなきゃなって思ってしまう。ファッションに限らず、既成概念と抑圧とを相手に根気よく闘い、そのつど少しずつ新しい風を獲得してくれた様々な分野の先達のおかげで今、当たり前になったことが(特に女性は)あまりに、あまりに多いのだからなあ。歴史だのう。
作家。76年生まれ。08年「乳と卵」で芥川賞受賞。歌手としても活動する。
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