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帽子界最高の栄誉、日本人女性が手に ガリアーノも魅了

2010年7月22日12時31分

写真:今年のロイヤル・アスコットの公式ポスターに掲載された、木下睦海さん作の帽子拡大今年のロイヤル・アスコットの公式ポスターに掲載された、木下睦海さん作の帽子

写真:昨年のロイヤル・アスコット公式ポスター。サンドペーパー(紙ヤスリ)で形作った本体から、イソギンチャクから着想を得た花が咲き乱れる個性的な帽子。木下さん作拡大昨年のロイヤル・アスコット公式ポスター。サンドペーパー(紙ヤスリ)で形作った本体から、イソギンチャクから着想を得た花が咲き乱れる個性的な帽子。木下さん作

写真:6月17日、ロイヤル・アスコットのレディース・デーの様子を報じるイブニング・スタンダード紙の1面記事。人気モデルのオリビア・インジェが木下さん作の帽子でポーズを決めている拡大6月17日、ロイヤル・アスコットのレディース・デーの様子を報じるイブニング・スタンダード紙の1面記事。人気モデルのオリビア・インジェが木下さん作の帽子でポーズを決めている

写真:08年春夏ニューヨークコレクション、「マーク・ジェイコブス」のランウェーより。木下さん作のヘッドドレスは、就航停止したコンコルドへのオマージュ(撮影は大原広和氏)拡大08年春夏ニューヨークコレクション、「マーク・ジェイコブス」のランウェーより。木下さん作のヘッドドレスは、就航停止したコンコルドへのオマージュ(撮影は大原広和氏)

写真:イヴ・サンローランの葬儀に参列したジョン・ガリアーノ。木下さん作の帽子が目を引く。新聞記事から拡大イヴ・サンローランの葬儀に参列したジョン・ガリアーノ。木下さん作の帽子が目を引く。新聞記事から

写真:2004年、ロイヤル・アスコットを訪れた時の一枚。社交場としての風情が漂っていた拡大2004年、ロイヤル・アスコットを訪れた時の一枚。社交場としての風情が漂っていた

写真:木下さんが手がけた2011年秋冬コレクションの最新作。レンドゲンフィルムを使い、モノクロームを表現拡大木下さんが手がけた2011年秋冬コレクションの最新作。レンドゲンフィルムを使い、モノクロームを表現

 洋装の正式なおしゃれに欠かせないのが帽子。海外の結婚式や要人の公式訪問などのシーンで、たびたび目にする。今回は、帽子の世界で最高の栄誉を手にした友人のお話です。

 王室の影響もあり、帽子文化が盛んな英国。その地で先月、新聞各紙の一面を華やかな帽子の写真が飾った。柔らかなブルーとゴールドのリボンが無数の円を描き、雪の結晶を思わせるクリスタルがあしらわれたエレガントな一点。兵庫県出身の木下睦海さんの制作だ。帽子職人を目指して英国に渡って7年、帽子ブランド「スティーブン・ジョーンズ」の中心的な存在になった。

 イギリスで、最も帽子屋が繁盛するのは毎年6月に行われるロイヤル・アスコットのシーズンといわれる。そう、競馬です。この地では昔から、競馬は着飾って観戦する「社交の場」としての要素も大きく、映画「マイ・フェア・レディー」さながらの雰囲気がいまも漂っている。

 中でも、馬好きで知られるエリザベス女王が観戦に訪れ、自らの名を冠した賞杯を手渡す中日の「レディース・デー」は、レースのうえでも、おしゃれの面でもクライマックス。男女とも帽子は必須で、各地から集ったセレブリティたちが、その最新デザインを競う。年間売り上げの半分以上をこの時期が占めるという帽子屋も少なくない。

 先述した新聞の一面記事は、今年のレディース・デーの様子を写真で報じたもの。人気モデルの帽子姿を取り上げていた。また木下さんの帽子は、2年連続でロイヤル・アスコットの公式ポスターにも採用されている。

 「アスコットといえば、帽子職人にとって最高の舞台。街角のビルボードで自分の帽子が載ったそのポスターを見た時は、心臓が止まりそうになりました」と、木下さんは話す。

 学生時代、クリスチャン・ディオールの雑誌広告で見た木製の前折れ帽に衝撃を受けた。かぶるだけのものと思っていた帽子が、アートなのだと気づいた。デザイン会社に勤めた後も帽子が忘れられず、30代になってから一大決心して帽子の学校を卒業し、本場英国へ。「フィリップ・トレーシー」などで見習いとして無給で働き始め、04年秋から現職。

 ボスであるデザイナーのスティーブン・ジョーンズは、ジョン・ガリアーノをはじめモード界に広い人脈を持ち、ディオールやマーク・ジェイコブス、コム・デ・ギャルソンなど数々のコレクションブランドのショーも手がける。故ダイアナ妃も、そしてボーイ・ジョージやローリングストーンズ、グウェン・ステファニーといったスターがひいきにする店でもある。

 木下さんがこのアトリエで働き始めて1年ほど過ぎた頃、上司のパソコンのスクリーンセーバーにふと現れたのが、あの忘れられない木製の前折れ帽だった。「あこがれの帽子を手がけた所で働いているのだと気づき、涙がほおを伝いました」

 今ではスティーブの信頼も厚く、春秋の新作発表に加え、ケイト・モス、ジャミロクワイといったスターからのオーダーも含め、年に相当な数を制作している。

 思い出深いのは、一昨年に亡くなったイブ・サンローランの葬儀で、ジョン・ガリアーノがかぶっていた帽子。ボスから彼に贈りたいからと急に依頼され、慌てて半日で仕上げたものだ。ジョンがいたく気に入って連日身につけていたため、素材を替えて追加で差し入れたところ、これをかぶっての参列となった。

 大きく羽ばたいた木下さん。そんな彼女との思い出は04年6月、共に訪れたレディース・デーの一日だ。当時ロンドンに在住していた私は、アトリエでアルバイトをしながら、言葉の壁や職場での確執に苦しんでいる彼女を見ていた。だからこそ帽子の魅力の原点にふれてみようというわけで、2人でアスコットへと出向いたのだ。

 黒の花柄ドレスに合わせて、黒い扇子に白とピンクの小花をあしらったヘッドドレス姿の木下さん。私にも、ピンクの水玉ドレスに合わせ、同色のスパンコールを水玉風にひとつひとつ縫いつけた手の込んだ帽子を作ってくれた。

 一族で、また仲間同士で談笑する英国人たちが、みなごく自然に、まるで身体の一部のようにしゃれた帽子を着こなしていたのが印象的だった。その一方で、東洋人の女子2人が明らかに浮いて見えていただろうことも想像に難くない。

 手にしたピムス(ジンをベースにした甘くほろ苦いリキュールに、オレンジやキュウリなどのスライスを浮かべたカクテル。ウィンブルドンやレガッタ、アスコットなど英国の夏のイベントで愛飲されている)の味と相まって、甘酸っぱい思い出である。

プロフィール

柏木友紀(かしわぎ・ゆき)

asahi.comファッション&スタイルページのエディター。

朝日新聞社入社から10ウン年、社会部、アエラ編集部、文化部を経て、09年10月より現職。メディアとファッションなどを主に担当してきた。

3度の食事と4歳になる息子、の次ぐらいにファッションは気にかかるが、生来の面倒くさがりのため、ラクして美しくなれる方法はないものかと思案中。

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