現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. ファッション&スタイル
  4. コラム
  5. 柏木友紀 おしゃれチャットBox
  6. 記事

ファッションとお城の「切れない関係」

2010年9月24日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真:13世紀に建てられたスピーニ・フェローニ宮殿に入るフェラガモ本店(中央)。時計の下には、開催中のグレタ・ガルボ展のポスターも。右奥はアルノ川にかかるサンタ・トリニータ橋
拡大13世紀に建てられたスピーニ・フェローニ宮殿に入るフェラガモ本店(中央)。時計の下には、開催中のグレタ・ガルボ展のポスターも。右奥はアルノ川にかかるサンタ・トリニータ橋

写真:グレタ・カルボ展で展示されている靴の数々(フェラガモ・ジャパン提供)拡大グレタ・カルボ展で展示されている靴の数々(フェラガモ・ジャパン提供)

写真:グレタ・カルボの衣装に加え、私服も多く展示されている(同上)拡大グレタ・カルボの衣装に加え、私服も多く展示されている(同上)

写真:堅固な石垣には、宮殿名を記した表示版と並んで、サルバトーレ・フェラガモ本店の表札が拡大堅固な石垣には、宮殿名を記した表示版と並んで、サルバトーレ・フェラガモ本店の表札が

写真:衣装博物館の入るピッティ宮拡大衣装博物館の入るピッティ宮

写真:衣装博物館で展示中のロベルト・カプッチのドレス(C)Fondazione Roberto Capucci2007拡大衣装博物館で展示中のロベルト・カプッチのドレス(C)Fondazione Roberto Capucci2007

 ファッションは、今でこそレッドカーペットだ、ストリートだと、様々なシチュエーションで語られているが、その歴史をひもとくと、やはり宮廷文化に行き着くのだなあと、実感したのが、イタリアのフィレンツェで開かれている二つの「城」(=パラッツォ)でのファッション展覧会だった。

 ルネサンス発祥の地であり、職人の街としても知られるフィレンツェは、中世の昔からファッションの中心地の一つであった。今も、街を貫くアルノ川沿いには革製品の工房が集中し、グッチやフェラガモなどの本店が高級ブランド街トルナブオーニ通りに軒を連ねる。

 そのフェラガモの本店兼本社は中世の堅固な石造りの建物で、同通りでもひときわ目を引くたたずまいだ。1289年に建てられたスピーニ・フェローニ宮殿をそのまま使用しており、アルノ川にかかるサンタ・トリニータ橋を見渡す絶好のロケーションでもある。

 1928年にフィレンツェで創業したサルヴァトーレ・フェラガモが、その10年後に宮殿を丸ごと購入した。それは世界恐慌のあおりを受けて一度は破産した彼の、再出発の象徴でもあった。

 1階は店舗、その地下に博物館がある。95年の開館当時は2階にあり、1万点に及ぶ彼のデザインした靴や木靴などを展示してきたが、2006年に地下へ移された。天井には中世貴族の紋章が描かれ、石積みの柱がアーチ方式でそれを支える。現在は女優グレタ・ガルボの企画展が開かれていた。

 イタリアサイズで9AAという大きな足を持つ彼女は、フェラガモで70足以上をあつらえたという。特にお気に入りだったという赤いサンダルや、レースアップシューズ、ベルベット素材で出来たイブニング用のバレリーナシューズなどが展示されている。同じデザインの素材違い、色違いも多い。気に入った型を、何度も注文してきた様子がうかがえる。

 銀幕を飾った衣装も興味深い。「インスピレーション」(1931年)で着用した黒のドレスは、ネックラインの刺繍(ししゅう)が印象的。「征服」(1937年)のグレーのウールコートも、現代でもそのままランウェーに出てきそうなラインだ。傍らでは出演作のダイジェストが放映されていた。

 モノクロームの画面から抜け出てきたドレスや靴が、中世の地下室に浮かび上がる様子はロマンチックかつ幻想的。いやが応でも、なにがしかのインスピレーションが湧こうというものだ。

 そういえば、同じくフィレンツェで「城」に本社機能を置く「エミリオ・プッチ」のデザイナー、ピーター・デュンタスも、6月にインタビューした際、インスピレーションの源の一つに、「パラッツォ・プッチ」を訪れた時の印象を挙げていた。貴族であるエミリオ・プッチの居城であり、今もその娘で同ブランド副会長のラウドミア・プッチが居住する「城」。デュンタスはここに、「伝統とラグジュアリーの神髄を感じた」と話していた。

 アルノ川を挟んだ丘の上、ピッティ宮にも衣装博物館があった。メディチ家の居城として長年使われ、絵画や宝飾品などの膨大なコレクションを誇る。その3階、ルネサンス様式の庭園に面した棟内18の部屋に、ドレスや靴、アクセサリーなどを展示する。

 開催中の「ファッション〜類似と相違の世界」展では、18世紀の宮廷文化華やかなりし頃に見られた腰から大きく広がる織りのドレスに始まり、そこから着想を得たりアレンジしたりした1900年代のドレスを主に並べていた。ジャンフランコ・フェレ、ジャンポール・ゴルチエ、ジバンシイ、ロベルタ・ディ・カメリーノ、ロベルト・カヴァリなど、各デザイナーのアイデアの源がたどれる趣向だ。

 「布による彫刻」とも呼ばれる構築的なドレスで知られる巨匠ロベルト・カプッチの作品も複数飾られていた。アートか、展示物かと議論を呼んできた「着られない」ドレス。この街や城を歩いた今なら、フィレンツェに本拠を置くこのデザイナーのクリエーション・スピリッツが少し分かったような思いがした。

 権力や富の象徴として、または美術工芸品として、発展してきたファッション。その最たる披露の場所は、やはり宮廷であっただろう。ヨーロッパでは、ファッション関連の博物館を宮殿に置くところが少なくない。パリではルーブル宮に装飾博物館が、ガリエラ宮にはモードとコスチューム美術館がある。ロンドンでもケンジントン宮殿にある宮廷衣装博物館で、ジョージ1世のローブやエリザベス女王が戴冠(たいかん)式で着たドレスなど、歴代の王室衣装を見ることができる。

 日本でも、豪華な十二単や打ち掛けなどは、宮家や武家の「城」を中心に展開されてきた。それを思うと、例えば京都御所や桂離宮に装束博物館があってもよいし、名古屋城などに徳川家の姫君の衣装美術館などがあってもおかしくはないのだが。もちろん皇居の片隅に、皇室の衣装展示館があってもよいけれど。

プロフィール

柏木友紀(かしわぎ・ゆき)

asahi.comファッション&スタイルページのエディター。

朝日新聞社入社から10ウン年、社会部、アエラ編集部、文化部を経て、09年10月より現職。メディアとファッションなどを主に担当してきた。

3度の食事と4歳になる息子、の次ぐらいにファッションは気にかかるが、生来の面倒くさがりのため、ラクして美しくなれる方法はないものかと思案中。

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介