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フィンランド、デザインキャピタルへ 世界に挑む理由

2010年11月2日

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写真:天井からつるされたグラフィックなデザインの「ヴォッコ」拡大天井からつるされたグラフィックなデザインの「ヴォッコ」

写真:キルスティ・カスニオのプリーツドレス拡大キルスティ・カスニオのプリーツドレス

写真:キュレーターのイルカ・スッパネン氏。今展示のシンボルである風船(後方)は「フィンランドの雪、閃きを表す泡を示しています」。拡大キュレーターのイルカ・スッパネン氏。今展示のシンボルである風船(後方)は「フィンランドの雪、閃きを表す泡を示しています」。

写真:再生段ボールを使った「ヤルヴィ&ルオホ」のエコー・チェア拡大再生段ボールを使った「ヤルヴィ&ルオホ」のエコー・チェア

 東京・新宿のリビングデザインセンターOZONEで「HIRAMEKI DESIGN×FINLAND」展が開催されている(11月7日まで)。これまでにない規模でフィンランドの最新デザインとライフスタイルを肌で感じ取ることができる。同国になじみある人には懐かしくも温かい、初めて触れる人には同国の飾らない素直なイメージが得られる機会だ。

 前者にあたる当方も、この展覧会で同地の香りを味わい直すことが出来た。10年ほど前、ノキアに代表される当時は最先端だった通信事情の取材で訪れたのだが、考えてみれば研究過程でも製品開発でも、またプレゼンテーションの場でも、あらゆる状況で「デザイン」の側面が強調されていたことを思い返す。

 それまでフィンランドのデザインについては、建築家の友人が新婚旅行先にフィンランドを選び、巨匠アルヴァ・アアルトの建築やドアノブや窓枠などデザインの細部を見学して回ったという話を驚きを持って聞いてはいた。だが、私自身はマリメッコのテキスタイルやイッタラのガラス食器といった、ごく一般的なイメージしかなかった。それでも現地では、多くのオフィスや役所で、そして研究所でも、シンプルで機能的ながら温かみやユーモアにあふれた家具や文房具、照明などに触れ、日常生活におけるデザイン性の高さに驚かされたのはよく覚えている。

 あれから約10年。今回の展覧会では、オートクチュールのドレスから、屋外キャンプ用テント、工場でのフォークリフトまで、様々な場面における最新デザインが幅広く展示されている。デザインの源や鋭い感性を意味する「ひらめき」を展示会の統一テーマに据え、作品はそのコンセプトごとに緑や青、白といった6色の「スパーク(きらめき)」に色分けされていた。

 例えば「白」は照明やエネルギーを、「緑」は持続可能性や福祉の思考を表すといった具合。キュレーターの一人、イルカ・スッパネンは「来場者の皆様の頭にも、何かひらめきが起こることを願っている」と話す。

 同国のデザイナーが好んで身につけることから、作家を表す「黒」の分野には、吹き抜けの高い天井からグラフィックなドレスがつるされていた。ヴォッコ・ヌルメスニエミによる作品だ。黒を中心とした大胆な色づかいが目を引く。衣服はもちろん、インテリアファブリックのデザインでも知られ、同国デザイン界のお手本とも言われる存在。一方、「キルスティ・カスニオ」は建築家出身のデザイナーだ。プリーツ生地を用いた構築的なドレスはフェミニンで、1点1点が手作り。「イッセイ・ミヤケからも強い影響を受けたわ」と本人。

 国旗の色でもあり、国土に点在する湖をイメージした「青」は、同国らしい日常生活に根ざしたデザインを集めた。松林の美しいカイヌ地方の松をつかった「カイヌ」のロッキングチェアからは家庭の温かさが漂う。国土の60%以上を占めるという森林をイメージさせる「緑」には、アウトドアブランド「サボッタ」の大型テントが出展され、「白」の再生段ボール材によるソファからは、雪に覆われた大地を連想する。

 これらの展示を見て、あの時の風景がよみがえってきた。私が同地を訪れたのは4月の上旬。冬から春へ、森と湖と大地が目覚めていく時期だった。ちょうど「フィンランドの自然のすべてがある」と言われる時期で、吹雪で前が見えなくなったかと思えば、翌朝はまぶしい日差しが降り注ぎ、ピシッ、ピシッと、ヘルシンキ湾の氷が解ける音が響いていた。ハイテク産業で知られる中部の街、オウルではオーロラさえ夜中に見られた(らしい。当方は気付かず寝ていたが)。

 豊かな自然をインスピレーションにし、長く厳しい冬が続くため、家の中や身の回りの雑貨に凝るようになったことなどが、この国の生活デザインの豊かさにつながったともいわれる。加えて政府や大学、企業が非常に緊密に連携し、デザイン性の高さは競争力を高める上での重要なファクターと位置付け、当時から「デザインエコノミー」の推進をはかっていた。三者間での人材の行き来も盛んだった。

 今回の「HIRAMEKI」展はその典型的な例といえる。主催元のデザイン・フォーラムは1875年創設のデザイン手工芸協会によって運営されており、同協会はのちの国立ヘルシンキ芸術デザイン大学(今年からアールト大学と改名)の設立母体でもある。展覧会の公式支援者には文化・スポーツ大臣が就き、企業も多くブースを構えるなど、まさに産官学が一体となって自国のデザインを売り出している。

 「人口わずか500万人の国が世界で勝負するなら、閃き(ひらめき)によって付加価値を高めることが最良の方法。ヘルシンキは2012年までには、世界のデザインキャピタルを目指します」。今展覧会キュレーターのハッリ・コスキネンは、こう述べていた。土地も資源にも乏しい日本にも通じる価値観であろう。

プロフィール

柏木友紀(かしわぎ・ゆき)

asahi.comファッション&スタイルページのエディター。

朝日新聞社入社から10ウン年、社会部、アエラ編集部、文化部を経て、09年10月より現職。メディアとファッションなどを主に担当してきた。

3度の食事と4歳になる息子、の次ぐらいにファッションは気にかかるが、生来の面倒くさがりのため、ラクして美しくなれる方法はないものかと思案中。

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