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2012年4月27日13時19分
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「Fashion×Passhion 吉川康雄」

メイクとヘア、究極の接近戦

吉川康雄

写真:ヴォーグ・インディア2012年6月号より。ビッグヘアは顔がちっちゃくなっちゃいますね。だけど結局この方がカッコいいのです。拡大ヴォーグ・インディア2012年6月号より。ビッグヘアは顔がちっちゃくなっちゃいますね。だけど結局この方がカッコいいのです。

写真:フレンチ・エル2012年5月号より。こんな感じだとヘアさんも僕もとっても平和に仕事出来ますね。拡大フレンチ・エル2012年5月号より。こんな感じだとヘアさんも僕もとっても平和に仕事出来ますね。

写真:2011年Paper magazineより。ヘアさんたちが大好きな「そこら中ヘア・スタイル」。レッドカードギリギリだけど雰囲気あるんです。拡大2011年Paper magazineより。ヘアさんたちが大好きな「そこら中ヘア・スタイル」。レッドカードギリギリだけど雰囲気あるんです。

写真:2012年4月Sunday telegraphより。ただの綺麗なナチュラルメイク。ナチュラルヘアの微妙にラフな乱れ感とおしゃれ服の組み合わせで不良風お嬢様を表現する。メイクだけでは表現出来ない世界が広がるのです。拡大2012年4月Sunday telegraphより。ただの綺麗なナチュラルメイク。ナチュラルヘアの微妙にラフな乱れ感とおしゃれ服の組み合わせで不良風お嬢様を表現する。メイクだけでは表現出来ない世界が広がるのです。

写真:Vogue germany 2010年より。帽子もグラフィック的にはヘアと同じ。アイメイクが強調されてモード風。すてきです。拡大Vogue germany 2010年より。帽子もグラフィック的にはヘアと同じ。アイメイクが強調されてモード風。すてきです。

写真:2005年 Bergdorf goodmanより。風でヘアが乱れた一瞬の美しさをとらえた写真。(以上、吉川康雄の作品集から)
拡大2005年 Bergdorf goodmanより。風でヘアが乱れた一瞬の美しさをとらえた写真。(以上、吉川康雄の作品集から)

 ヘアメイクって、とっても一般的な言葉になっています。綺麗になるにはヘアスタイルもお化粧も大切、両方ちゃんとやらなきゃっていう言葉ですよね。少し前まで日本の撮影の世界では、全て1人のプロが担当するのが当たり前で、僕もそうでした。あの頃は平和だった……。メイクに主張がある時はヘアをナチュラルに、ヘアが派手な時はメイク抑えめなどと僕が、ヘアとメイク二つのバランスをとって1人の女性を綺麗に仕上げる。メイクとヘアは、持ちつ持たれつ親友みたいな関係で、僕も両方やることが大好きでした。

 そんな僕にとって、ニューヨークに移住した時がメイクとヘアの仕事が分断された時です。世界レベルの舞台では、有名なアーティストは皆どちらかを専門にやっています。二つは全く違う技術で違う職業という考えだからです。最高のレベルのものを目指すにはそうなるのでしょう。ということで僕もメイクを選びました。どうしてかって? ビューティー写真のクローズアップではメイクは確実に写るけど、ヘアは時々写真の外で写らないことが多いんです。メイクは絶対写される「安全圏の沈まぬ島」のようなものだと思っていました。だからメイク! エゴ丸出しの理由なんです。

 こんな身勝手な僕が、ヘアさんと共同で女性を美しくしていくのですが、そのヘアさんとの仕事の境界線は「生え際」。近隣国同士のようなものですから僕らの仕事は超接近戦になります。僕らの目的は同じで、自分の仕事をアピールしてキャリアアップ!です。だからお互い才能ある相手を捜します。自分が上手でも相手の仕事がよくなきゃ自分の作品が綺麗に見えないからです。結局、2人の仕事は二つで一つ。お互いの重要性を認めつつ、一見リスペクトから始まるこのエゴイスティックな近隣アーティストの関係はとっても複雑なんです。

 髪でメイクを隠さずカッコいいヘアスタイルが出来ている時、2人の関係は最も平和です。だけどそんなことは、ホントにまれです。

 メイクが素晴らしいほど、ヘアの人は燃えてきます。そしてほとんど本能的に髪を顔の中央に向かって近づけてきます。国境は一応生え際になっているはずですが、前髪がどこまでも目元に向かって侵略してきます。つけ毛まで付けて出来上がったロングヘアを風に乗せて飛ばし、顔の上をさまよわせます。クローズアップに仕上がると感じたヘアさんの野性が髪を顔の中央によせていくのです。写真が仕上がってもヘアが写っているように。髪は眉や目、そして黙っていると顔全体を隠すこともあります。

「ああ、僕の綺麗なメイクが……」

 ブ、ブー、レッドカード! 本末転倒だよ、モデルが見えないよ、ヘアさん。

 ヘアが顔にかからなくても、どこまでもカッコ良くビッグサイズのへアースタイルになっていくと、それを写真に収めようとすると、顔とメイクは米粒みたいにどんどん小さくなってしまいます。それはそれでメイクの僕はやっぱり結構不満なのです。

 僕の作る艶肌も、撮影では時々すっごくオイリーに仕上げます。そんなことにはおかまいなしのヘアさんは、ドライヘアの質感で仕上げてくることも。風になびいて肌に触れると、ヘアはどんどんぬれてオイリーに。ヘアさんはカンカン。メイクもヘアでボロボロ。ヘアさんは怖いけど、より綺麗な写真にするためにどんどんオイルを付け足します。ヘアさんが口を利いてくれなくなることもあるんです。

 こんな2人のせめぎあいをジャッジするのはあくまでカメラマン。なにが起きても写真が美しければOK。NYに移った頃、よくヘアの人が「このカメラマン、へア好き? メイク好き?」って気にしているのが不思議でしたが、カメラマンの好みを知っておくことが僕らヘアとメイクにとって大切なんですね。

 僕らが目指さなければいけないのは、美しい二人三脚のはずなのに、ヘアとメイクのゴタゴタは日常茶飯事です。皆さんが隣近所と仲たがいするよりもっと頻繁なんです。何日も同じヘアさんと仕事すると、互いのエゴの衝突で嫌になってしまいます。みんな自分勝手です。でも仕事の才能で選ばれてきたスペシャリストたちなので、やっぱり仕上がりは自分1人でヘアメイクするよりも、はるかに想像力豊かで緻密、その美しさがより広がります。だからこそ、次に会っても笑顔で会えるんです。

 撮影の舞台裏からわかるように、ヘアとメイクはどっちも大切な「二つで一つ」なんです。そして皆さんはこの二つをうまく組み合わせることで、自分自身をより無理なく美しく見せることが出来るのです。メイクだけに頼ってもヘアだけに頼っても損しちゃいますよ。

プロフィール

写真

吉川康雄(よしかわ・やすお)

メークアップアーティスト

1959年、新潟県生まれ。1983年から活動を開始し、ファッション誌や広告制作で活躍後、1995年に渡米。各国のVOGUEなどの表紙をはじめ、著名ブランドの広告、コレクション、セレブリティのポートレイト用メークなど、幅広く活躍中。ヒラリー・クリントン国務長官や、カトリーヌ・ドヌーブらセレブリティも多く手がけている。
2008年3月からはカネボウのプレステージブランド「CHICCA」のブランドクリエイターを務め、毎シーズン、日本の大人の女性に向けたメークを提案している。
世界を飛び回る毎日だが、休日はNYの自宅で妻と娘と過ごす。

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