2012年3月6日
ビム・ベンダースが3Dで撮影した映画「Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち」が先週末に公開された。2009年6月のピナの突然の訃報(ふほう)から間もなく3年が経つ。
1986年の初来日公演から見続けてきたピナ・バウシュを、雑誌で撮影する機会が訪れたのは02年1月のパリ・メンズで。ヨウジヤマモトのコレクションが終わって出口に向かう途中、人波と逆にバックステージに向かって歩いてくるピナが見えた。すれ違った時、山本耀司の服を着るピナを撮影したいという思いが具体的になった。おそらく長年少しずつ気持ちの中で発酵してきたものが、この日明確な欲求に変わったのだ。
「ピナがあなたの企画書に興味を持っているので実現するでしょう。あとは日本で打ち合わせをしましょう」。撮影を打診したヴッパタール舞踊団から、快諾の返事が届いた。そして彼らの来日公演中に、「ミスターハイファッション」の、ヨウジヤマモトを着るピナ・バウシュのページが実現した。
思惟(しい)の深さを表すピナの青い眼(め)は、掲載誌の中で、今も孤高の表現者だけが持つ静謐(せいひつ)な美をたたえている。
2年前このコラムが始まった時は、紙媒体の終わりを謳(うた)う記事がメディアにあふれ、ウェブが急速に台頭した時期と重なる。その1年後、ウェブと紙は共存すると、記事のトーンは次第に変化してきたが、時代の転換期はまだ続いている。
逆境の時代でも、編集者にとって抜き難く重要なのは、オリジナルな企画力を鍛えることと、人の心に浸透していくものを誌面化することだと思う。一つの雑誌でピナ・バウシュの撮影が実現したのは奇跡的なことだと驚く人は多い。だがそれよりも、パーソナルなことに共感する時間を、この不世出の舞踊家と共有できたことのほうに、喜びを感じている。(編集者)
◆〈雑誌とその時代〉は今回で終わります。
「MRハイファッション」「ハイファッション」編集長などを経て10年に独立。