2010年5月10日7時0分
腕に機械をあてて脱毛してもらう小学生の女の子=福岡市内
暑さとともに肌の露出が増え、女性はむだ毛が気になる季節。そんな中、脱毛にエステサロンを利用する子どもが増えている。人目を気にした乙女心からのものが多いが、「毛深いとからかわれた」といった、いじめを理由にするものも。ただ、やけどなど皮膚に障害を起こす場合もあり、関係者は安易な利用に注意を呼びかけている。
九州・沖縄でエステサロン「カレン」を展開するカンナ(福岡市東区)は、昨年12月に子ども向けの脱毛サービスを始めた。4月末までの5カ月で、全9店に3歳から高校3年生までの414人が訪れたという。同社が福岡県内の来店者111人に脱毛理由を尋ねたところ、「人目が気になる」(20人)、「男子にからかわれた」(8人)、「友達に毛深いと言われた」(5人)などの回答が多かった。
幼稚園で毛深さを笑われたという4歳の女の子は、はさみで自分の腕の毛を切った際、肌を傷つけてしまい、見かねた母親が連れてきた。
福岡市中央区の中学2年の女子(13)は、鼻の下や手の甲に生えた毛を男子生徒に揶揄(やゆ)され、施術を受けた。母親(44)は「からかわれ、心も閉ざしがちだったが、脱毛を始めたら精神的に楽になったのか、信じられないくらい積極的になりました」と喜ぶ。自身も若いころ、毛が濃いことに悩み、粘着テープではがし取ったり、そったりして、肌を痛めた苦い経験がある。娘の気持ちはわかるという。
エステサロンによっては、中高生の脱毛を断っているところもあるが、取材に応じたいくつかの店は、中高生の脱毛の相談や来店は確実に増えていると認める。あるエステ店長は「親世代がエステに抵抗感がなくなっている」と指摘する。別の経営者は「わき毛を処理していない女性が電車でつり革をつかまっていたら周囲はどう思うか。社会が毛深さを敬遠しており、子どもも影響を受けて脱毛したくなるのは当然」と話す。
ただ、料金は決して安くない。カレンでは大人と同額で、全身脱毛だと12回で36万円。それでも母親は「何げない一言でどれだけ傷つくか。からかわない教育も必要だが、解決できるのならエステ利用もあり。プロなら安心だし」と話す。
同社が子ども向けの脱毛を始めたきっかけは、鉄穴(かんな)英明社長(46)の長女(11)が毛深さに悩んでいたことがある。お客からも「子どもが毛深さをからかわれ、学校に行かなくなった」といった相談が多く寄せられていた。痛くない脱毛法を研究し、07年に大人向けに導入。約2年間で安全性も確認できたとして、子ども向けを始めたという。
「子にカミソリやはさみを持たせるより安全。体毛の悩みに時間や気を取られず、勉強や睡眠にあてられる。子どもの脱毛はファッションではなく、悩みの解決法の一つなんです」と強調する。
一方で、こうした風潮に警鐘を鳴らす人もいる。
顔に傷などがある人の精神面のケアをし、人の外観と心の問題に取り組んできたフェイシャルセラピストのかづきれいこさん(57)は「安易な利用が広がれば、毛が長い私はだめ、といった強迫性を子どもに与えないだろうか」と心配する。そのうえで、「外観をあげつらうのはもってのほかだが、あざや毛深さを含めた人間の多様性を自他ともに認める教育も同時に必要」と話している。(山下知子)
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国民生活センターによると、脱毛をめぐる被害相談は、2000年度から今年4月末までに2059件寄せられている。うち、湿疹ができたといった皮膚障害に関する相談が1020件、やけどが920件と大多数を占めている。毛根を破壊するレーザー脱毛はもちろん、光を使った脱毛でも出力ミスなどでやけどの被害が出ているという。
同センターでは、デメリットも含めた事前説明がしっかりしている店を選ぶこと、体質や体調によって影響が出る場合もあるため、一度に長期間の契約をしないこと、などを助言している。
脱毛について厚生労働省は01年、「(毛がつくられる)毛乳頭、皮脂腺開口部などを破壊する行為」は、医師以外が行った場合は医師法違反になるとの通知を出している。