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革の学校、年10人 基本からじっくり

2010年8月31日10時17分

写真:学生に指導する斎藤茂さん(右)拡大学生に指導する斎藤茂さん(右)

写真:この道60年の職人アデルモ・キーティさん(右)。革製品作りの傍ら、学校の専門課程で教える拡大この道60年の職人アデルモ・キーティさん(右)。革製品作りの傍ら、学校の専門課程で教える

写真:作品がずらりと並ぶ廊下。奥で職人がバッグを実演製作している=イタリア・フィレンツェの「革の学校」拡大作品がずらりと並ぶ廊下。奥で職人がバッグを実演製作している=イタリア・フィレンツェの「革の学校」

 イタリアのフィレンツェに、バッグなどの皮革製品づくりを教える専門学校がある。その名も「革の学校」。第2次世界大戦後、戦争孤児たちに手に職をつけさせようと、地元の教会などが創立した。職人が直接、技術を伝授する少人数教育の伝統が守られている。

    ◇

 白い大理石のファサードがそびえるサンタ・クローチェ教会。13世紀以来の歴史がある同教会の修道院の寮だった建物に「革の学校」はある。

 毎年、地元イタリアをはじめとする欧州のほか、北米やアジアなどから約10人が入学し、数カ月から1年かけて、手縫いの技術、革小物づくり、バッグづくりなどを学ぶ。店舗も併設し、財布など革小物の定番モデルを販売するほか、オーダーメードにも応じている。

 6月中旬、れんが造りの教室兼作業場を訪ねると、学生たちが各自でデザインしたバッグを作っていた。

 その一人、東京都出身の石原裕美さん(26)は日本で靴やバッグのデザイナーをしていた。デザインにとどまらず、自分の手で作ることもしたいと、今年2月に入学。最初の1カ月で何種か基本のバッグを作りながら技術を身につけた後は、デザインや型紙づくりを含めて自分で考えて作る。「自由に取り組める一方で、常に先生が一緒に考えて助言してくれる。期待以上に上達した」という。

 この日、教室で教えていたのは広島県出身の斎藤茂さん(32)だ。イタリア人女子学生の手元を見るなり「あれ、ファスナーの付け方が逆向きだよ」と指摘し、付け直す方法を指導していた。斎藤さんはスペインで馬の鞍(くら)づくりを学んだ後、03年に入学。腕を見込まれて学校の工房の職人になり、昨年から教える側に抜擢(ばってき)された。

 「とにかく手で覚えてもらう。人も革も、一人ひとり、一枚一枚違う。その人、その革にあわせて根気よく教えたい。技術だけでなく、物作りへの愛情のようなものまで伝えられたら」と話す。

 その斎藤さんが師事したアデルモ・キーティさん(78)は、店舗へ続く廊下で、紫色のオーストリッチ革でバッグ作りを実演していた。この道60年。仕事で一番大切なことは何かと尋ねると、「細かい縫い合わせをきれいに仕上げる手仕事の確かさはもちろん、デザイン、型紙作り、そして革選びも大事だ。革のどこをどう使って、どういう方向に切るかにも細心の注意がいる。それから……」と話がとまらなくなった。

 その奥ではフランチェスカ・ゴーリさん(57)が、アンティークのジュエリーで飾ったり、特別な刺繍(ししゅう)を施したりしたオリジナルのバッグを作っていた。「すべて手作りの一点ものなのよ」と胸を張った。

 学校は現在、戦後に教会とともに学校を創設したゴーリ家が経営に当たっている。3代目となるトマーソ・ゴーリさん(37)は、小規模な「革の学校」を続ける理由を、「職人性への投資だ」と語る。イタリア人にとって、ものづくりにおける職人の精神はとても重要だとも。

 「それには単にハンドメードであるということを超えた創造性が必要です。特にフィレンツェには、自由で個性的な創造を尊ぶ職人気質の伝統がある。ここは学生たちの創造性を発展させるためのツールを与える場所。職人が助言しながら学生の可能性を引き出し、協働、協業していくスタイルを守っているのです」(菅野俊秀)

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