2011年8月1日10時58分
節電の夏を迎えた日本で、職場の服装のカジュアル化が進んでいる。スーツやネクタイから解放されて喜ぶ男性は多いが、極端なドレスコードの自由化・逸脱には異論もあるようだ。現在の日本で「節電ビズ」「スーパークールビズ」は、どこまで許容されるのか。
■短パン出勤/のぞく胸毛/うっすらと乳首
「ダボダボのポロシャツを着た中年男性が増えた。『日曜日のお父さん』になってしまい、女性の間で株を下げた人が相当います」
そう語るのは都市銀行の系列会社に勤めるA子さん(31)。6月中旬、スーパークールビズに関する通達がグループ内に流れ、7月1日から実施された。
年配者とは対照的に、若手には今まで通りの人が多い。「カジュアルのコーディネートを知っているだけに、パンツから靴、バッグまで新たにそろえるのが面倒みたい」。どちらの世代も努力放棄だと思う。
外資系企業に勤めるB子さん(44)の職場は、外国人従業員が多いこともあり服装コードが驚くほどユルい。「外国人女性はタンクトップやキャミソールで胸元全開。しかもジーパンにビーチサンダルで出社してくる」という。
自分の服装もかなりラフになっているが、許せないのが「男性の短パン」だ。
「出入りされている代理店の方ですが、5月からずっと短パン。完全に遊びに行く格好で、社会の中で培われてきた“オン・オフ”の価値観が崩れている」
かつて夏でもストッキングだった女性も今では「生足(なまあし)」が当たり前。時代の流れでマナーも変わると思うが、「やりたくてもやれなかったことも、誰かがやり出せば影響を受ける」。
ファッション評論家のドン小西さんは、「ファッションは人間の内面を映す鑑(かがみ)」と語る。背広は軍服の延長。没個性だが、それを脱ぐ時、その人の本当のさまが露呈するという。
「短パンもポロシャツも結構。でも、自分がどう見られるかは仕事に反映するよ。それを分かった上で自己責任でやりなさいと言いたい」。自分の仕事や環境にどう影響するか、日本のお父さんたちにも考えてほしい。「一人一人の実力が試されてるんだよ」
宝飾会社で働くC子さん(31)が我慢できないのは服装コードの緩みと共に見えてくる「毛」の問題だ。
ノーネクタイのワイシャツから見える胸毛は以前から職場の女性の話題に。半袖、ノーネクタイが当然になり「それ」を目にする機会は確実に増えた。
「毛深さには個人差がある。だからこそ見えないように気を使って欲しい」
公務員のD子さん(31)も「半袖から見えるわき毛は本当に嫌」と語る。役所なので極端な服装は少ないが、下着着用率は下がった。「シャツが薄く短くなるぶんせめて下着を」
さらに困りものなのがTシャツ。色は白が最悪だ。男性の乳首が存在を主張し始めるからだ。「うっすらとした存在感が生理的に嫌。生地の厚いポロシャツが最低ラインです」
これに体臭を加えた「3点セット」に悩む夏だ。
紳士服ディレクターの赤峰幸生さんは「肌や体の生々しさを出さないのがビジネスの作法。それなのにスーパークールビズのお触れによって、たがが外れたのが今の状況」。何でもありの風潮を危惧する。
「洋服のルーツを考え、世界基準にのっとることが必要。洋服=西洋服。ヨーロッパの原則を踏まえた上で日本の気候に合わせるべきです」と赤峰さん。
仕事で何を着るかは相手があって決まる。同僚だけでなく、取引先の男性、女性、目上の人も含まれる。仕事着は「外の人」に気をつかって選ぶもの。その試行錯誤こそがファッションの本質なのかもしれない。
余計な一手間? いえいえ。世の中の女性たちが既に実行していることです。
(安部美香子、竹端直樹)
■猛暑以来、進む自由化
「クールビズ」という言葉が登場したのは2005年。小泉政権下で小池百合子環境相が打ち出したノーネクタイのスタイルだ。第2次石油危機の際に通産省(現経産省)がPRした半袖上着「省エネルック」と違い、しっかり定着。夏の定番スタイルになった。
一方「節電ビズ」は、環境省が提唱した「スーパークールビズ」とともに、今年の電力不足を背景に登場した。
そもそも紳士服の開発は、半年から1年という長期間をかけて準備を進めるのが普通だ。現在売れ筋のビズポロなどは昨年の猛暑を受け、メーカーが速乾性の高い新素材を使い開発を進めてきた。そこに大震災が発生。クールビズをさらに進める製品として、「節電ビズ」と冠して売り出すことに。
当初は新素材の機能性が売りだったはずが、今ではドレスコードの自由化・逸脱が起きている。