ファッションとクルマによる新しい創造とは――。ハイブランドと高級車メーカーの“蜜月”が続いている。一緒に特別仕様車を仕立てたり、イベントを支援したり。高いデザイン性や手仕事へのこだわりによってイメージを高め、買い手の心に訴える。
■コスチューム・ナショナル×アルファロメオ
8月末、東京・青山にあるコスチューム・ナショナルのブティックは汗ばむ熱気に包まれていた。披露されていたのは、世界で限定9台というアルファロメオの特注車。車のインテリアデザインを、同ブランドのデザイナー、エンニョ・カパサが引き受けた。
無垢(むく)のアルミニウムを削りだしたパーツとダークグレーの皮革を組み合わせた内装は、カーナビやカーステレオを露出させず、カパサの簡潔な服に通じるデザイン。外装を手がけた原田則彦は「工芸品の世界だ」と賛辞を送り、カパサは「アルファロメオの強い個性に刺激を受けたいと思った」と語った。
価格非公表という最高級車で、一般のドライバーには縁遠い世界。だが、マーケティング本部長のティツィアナ・アランプレセは、「アルファロメオはデザインで買われる車。全ての顧客にアピールできる」と満面の笑みを浮かべた。
■フェンディ×マセラティ
フェンディも去年夏、同じイタリアのマセラティと、高級仕様車「グランカブリオ」(2600万円超)を作った。毛皮製品の工房をルーツに持つフェンディは、車の座席と同じ革を使ったバッグなどもセットにして提案した。
ただ、「売るのが目的ではない」とフェンディの広報担当者。「ともに一つ一つ組み立てていく手仕事を大切にするブランド。そこを訴求するのが狙い」。今春には、フェンディを着てマセラティに乗る女性が、手仕事を大事にするイタリアの生産現場を巡るロードムービーまで完成させた。
■ファッション・ウィーク×メルセデス・ベンツ
世界30カ国以上でファッションイベントを支援するのがメルセデス・ベンツ。10月13日開幕の「ファッション・ウィーク東京」の冠スポンサーにも去年、日本法人が名乗りを上げた。
「価値観やライフスタイルが見て取れるのは車もファッションも同じ。相乗効果は大きい」と商品企画・マーケティング部の阿左見薫部長。「イメージのポジショニングを変えたい」とも。ベンツは従来、保守的なイメージが先行していた。流行の先端であるファッションのイベントを支援し、先進的メーカーとしてアピールしていくという。(中島耕太郎)
■車業界、時代性の表現求める 「GQ」編集長の鈴木正文氏
1980年代から雑誌「NAVI」「ENGINE」のトップを歴任、現在は「GQ」編集長を務める鈴木正文氏に「車とファッションの関係」について聞いた。
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19世紀末の誕生以来、車は新時代の空気を運ぶ存在だった。大都市が成立すると、「どこそこの家の誰」といった表現に代わり、車とファッションが「時代的身体」として「自分が何者か」を示すようになった。
戦後、イタリアで普及した大衆車「フィアット500」は労働者一家もバカンスに出掛けるライフスタイルを実現した。車に乗って若者が街に出る「アメリカン・グラフィティ」の世界はユースカルチャーそのものだった。
だが今、特に日本の都会では「車を所有しなければならない」という強迫観念は希薄になり、車が備えていた時代性はスマートフォンにとって代わられた。かつての地位を失った車が、時代性を表現し続けているファッションに積極的に接近しているように思える。
特に、富裕層相手に競争している高級車メーカーは、ハイブランドとコラボレーションすることで、時代をとらえたライフスタイルへの適合を示す必要があるのだろう。