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森英恵(86)は、1950年代から日本のプレタポルテを確立し、欧米進出も成功させたパイオニア。世界でも数少ないパリ・オートクチュールデザイナーで、04年に引退。現在は舞台衣装などを手掛けている。
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――財団を設立して若手デザイナーを支援していますね。
「ファッションは、その国の国力や今後の勢いを反映します。先日、アジアの新進デザイナーの作品で、中国やベトナム人が作る服に目を見張りました。日本でも、80年代に続く、次の“新しい日本の黒”の表現が出てきていて、心強かった。底流としての日本文化を大事にすることが必要なのでは」
――日本の伝統表現ということでは、森さんが60年代に世界を目指した時と何が違います?
「あの時代は人々の意識の中の国境の壁が今よりずっと高くて、乗り越えるのに苦労した。米国で上演中の“蝶々夫人”を見て、日本の女はこうじゃない、馬鹿にしないでよ、という気概がエネルギーになった。壁は今では低くなったけれど、互いに人間の手の感覚が退化しちゃっていて、伝統を生かして手で作り込んだ服が理解されにくい。20年前の私の作品を見て、本当に手で作ったの?と聞かれるんですよ。さびしいです」
――着る側の意識の変化は?
「男女の関係が変化して、対異性というより自分の人間的な魅力の表現を服に求め始めている。私は上品な女らしさを表わそうとしてきましたが、今は男女や年齢、国籍の境もぼけてきた。その意味では、いい女、いい男をあまり見なくなりました」
――今後、ファッションはどんな方向に進むのでしょうか。
「ファッションとは、時代の変化に敏感に反応して、それを見極めること。ものがあふれていることが豊かで幸せという時代が終わって、値段の割に質が高いとか、アーティストと同じような位置で作った服が影響力を持つようになるのでは。じきにがらりと変わると思います」
――次作はチョウではなく、ツルがモチーフだとか?
「オペラの衣装でツルを表す機会があって。チョウが懸命に海を越えて行く姿に自分の道を重ねてきましたが、もうチョウでは十分に戦いました。ツルはもっとすらっとして優雅。かっこいい今の女という気がします」(編集委員・高橋牧子)