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フランス発 獲れたてシャンパーニュ・リポート

フィネス、フレッシュさ、エレガンスがコンセプトの『ローラン・ペリエ』

2009年5月21日

  • 筆者 青木冨美子

写真アレクサンドラ・ペレイル・ド・ノナンクール取締役と今年1月に就任したばかりのステファンヌ・ツァシス社長。ローラン・ペリエ社が所有する『シャトー・ド・ルーヴォワ』のサロンにて写真ヴェルサイユ宮殿で使われていた瓶型を模した『グラン・シエクル』と『アレクサンドラ・ロゼ』写真昨年生誕40周年を迎えたセニエ法で造る人気のロゼ・ブリュット写真経験豊かなシェフ・ド・カーヴのミッシェル・フォコネ氏写真ヴァン・クレールは前列の6アイテム。左からル・メニル・シュル・オジェ、オジェ、クラマン(3つともシャルドネ)、アンボネイ、ブージー、マイィ(3つともピノ・ノワール)

■ローラン・ペリエの今につながる17世紀

 ローラン・ペリエのメゾンがあるトゥール・シュル・マルヌの北方にルーヴォワの村があり、その村に落ち着いたたたずまいのシャトー・ド・ルーヴォワがある。17世紀、ルイ14世の治世下に活躍したミシェル・ル・テリエの息子フランソワ=ミシェル・ル・テリエ(ルーヴォワ侯)の居城だったところで、その優雅な庭はル・ノートルが手がけたという。ヴェルサイユ宮殿で名をはせた著名な庭園設計家である。

 今回、光栄なことにローラン・ペリエが所有するシャトー・ド・ルーヴォワでのディナーにお招きいただいた。その折、アレクサンドラさんにシャトーの由来について伺った。前述がその一部だが、「17世紀にはふたりの重要な大臣がいました。ランスに住んでいた財務総督のジャン=バティスト・コルベールと、この地ルーヴォワに住んでいた陸軍大臣ルーヴォワ侯です。また、17世紀はシャンパンにとって記念すべき時代です。なぜなら今のように“泡のある飲み物としてのシャンパン”が登場したからです」と。

 アレクサンドラさんは立志伝中の人物ベルナール・ド・ノナンクール(※1)会長の長女で、女優のグウィネス・パルトロウ似の知的美人。そう、彼女が強調したようにフランスで発泡性のシャンパンが飲まれるようになったのは1680年代、17世紀のことなのだ。

 ディナーではマグナムサイズの『アレクサンドラ・ロゼ1998』が供された。「耳を澄まして! ボトルが素敵な音色を奏でるのよ」とアレクサンドラさん。ローラン・ペリエが誇るロゼの最高峰は、彼女の名を冠したシャンパンだが、1987年の愛娘の結婚を祝して、ド・ノナンクール会長が愛情込めて造った逸品である。このシャンパンボトルは口元が細長い鶴頸型になっているので、ワインが筒状の部分を通ってグラスに入る時、「プルプル」という独特の音がする。アレクサンドラ・ロゼファンならすぐにわかる音色だ。実はこの瓶も17世紀ゆかりのもので、ルイ14世の時代、ヴェルサイユ宮殿で使用されていた手吹きボトルをコピーした一品である。

■故ド・ゴール大統領が名付け親! 偉大なる世紀『グラン・シエクル』

 シャトーの逸話、ボトルの由来、そしてもう一つ、特筆しなければならないことがある。プレステージ・キュヴェ『グラン・シエクル』のネーミングだ。第2次世界大戦中、ヒトラーが略奪したワインを守った人々の回想をつづった『ワインと戦争』(飛鳥新社)は私のお気に入りの1冊だが、このなかに、ド・ノナンクール会長が計画中だった新シリーズの高級シャンパンの名称について悩み、候補にあがった名前のリストを大統領に送る話が出てくる。

 すぐに届いた返信には「ド・ノナンクールくん、もちろん偉大なる世紀(グラン・シエクル)だよ!」と書いてあったという。

 ド・ノナンクール会長は大戦中、ド・ゴール氏の演説に触発され、レジスタンスとしてドイツ軍と戦っていた軍曹であり、1945年にはヒトラーの山荘“鷹の巣”に踏み込む先陣役の命を受け、見事に遂行した功労者だ。

 3年ほど前に『グラン・シエクル』のネーミングを知り、「なぜ偉大なる世紀(グラン・シエクル)?」、「なぜ17世紀?」と疑問に思っていたのだが、今回、ルーヴォワ城を訪問して、17世紀に端を発する1本の筋がハッキリと見えた。ちなみに『グラン・シエクル』のボトルも『アレクサンドラ・ロゼ』と同じ瓶型だ。フランスの文化や芸術が最も円熟していた優雅な時代、それが17世紀であり、この時代をローラン・ペリエと切り離して考えることはできない。

■“フィネス、フレッシュさ、エレガンス”を生み出すシャンパン造りの秘訣

 シャンパン・メゾンでは“最高に良いぶどうが収穫できた年の最高傑作”ということで、プレステージ・シャンパンを造るが、『グラン・シエクル』の場合は発想が異なる。ぶどうはシャルドネとピノ・ノワールの2品種で、シャンパーニュ地方のグラン・クリュ17村(※2)のうち、約12村を選んで使う。ユニークなのは次の点にある。3つの収穫年をブレンドしていることだ。現在市場に出ている『グラン・シエクル』は1995年、1996年、1997年がブレンドされている。

 95年は繊細さ、96年は熟成、97年はフレッシュさ、という特徴があるので、それらを把握しながらブレンド作業を行う。この場合、一番若いヴィンテージ(ここでは97年)の割合を多くして、その他のヴィンテージを混ぜることで、シャンパンのバランスを保つようしているそうだ。

 フラッグシップの『グラン・シエクル』をはじめとして、ローラン・ペリエのシャンパンはフレッシュさとフィネスを併せ持つのが特徴。この謎を解くカギが“ステンレスタンク”の存在だ。樽の使用を一切やめ、1963年から100%ステンレスタンクを導入することに決めたが、これはド・ノナンクール会長がベルギーでのビール造りの製造工程を見て、シャンパンの“フレッシュさ”を生かすための最善の方法として取り入れたものだ。

 2004年、シェフ・ド・カーヴに就任したミッシェル・フォコネ氏はステンレスタンクの利点について「温度調整ができるのでワインの品質管理、アロマの抽出、フレッシュさを保つことができます」という説明に加えて、シャルドネの比率の多さもローラン・ペリエのコンセプトである“フィネス、フレッシュさ、エレガンス”を表現する大事な要素であることを強調していた。

■骨格のある長期熟成タイプのシャンパンが期待できる2008年ヴィンテージ

 シャンパーニュ訪問の目的のひとつが、2008年産のヴァン・クレール体験だった。“ヴァン・クレール”とはシャンパンのベースになるワイン、生まれたての赤ちゃんみたいなワインだ。

 クリュごとに仕込んだぶどう品種別のヴァン・クレールを味見して、それぞれの特徴をつかみ、何種類ものワインをブレンドしながら、シェフ・ド・カーブたちは自分達のメゾンの顔となるノン・ヴィンテージ(NV)のシャンパンを造り出す。「ヴィンテージ・シャンパン造りより、NV造りのほうに面白さを感じる」と語っていたフォコネ氏。毎年同じスタイルを維持、表現していかなければならないNV造りこそ、シェフ・ド・カーブの腕のみせどころなのだろう。

 2006年に続き、2回目となるヴァン・クレールの体験は……フォコネ氏が用意してくれたのはシャルドネ3種類(1)ル・メニル・シュル・オジェ、(2)オジェ、(3)クラマンと、ピノ・ノワール3種類(4)アンボネイ、(5)ブージー、(6)マイィの計6アイテムですべてグラン・クリュ。「(1)のル・メニルはミネラルとシトラス、(2)のオジェはフルーティさとデリケートなフィネス、(3)のクラマンはまだ固く頑強だがパイナップルの様な風味、(1)から(3)の順で重くなります」という説明を受けた。予想外だったのがクラマンで、一番繊細だとばかり思っていたのに重厚な質感で好印象。同時に同社のクラマンにかける期待も感じた。

 一方のピノ・ノワールは(5)のブージーが他の二つと比べ、色調もほんのわずか異なり、果実味、酸味、口中での余韻が際立っていた。これは予想通りだった。フォコネ氏は「(4)強さと繊細さ、(5)豊富な酸と熟した果実の柔らかさ、(6)強さと骨格」とコメントしていたが、ヴァン・クレールの特徴を早期に読み取り、将来性を見据えて、シャンパンを完成させてしまうシェフ・ド・カーヴの技量、経験の豊かさを実感した。

 シャンパンラバーにとってヴィンテージ・シャンパンの生産の有・無は気になるところである。2008年ヴィンテージについての質問に対して、「骨格があり、長期熟成タイプのシャンパンが期待できます」とフォコネ氏から自信にあふれた回答が! 「開花の時期に幅があったものの、収穫期後半良い天気が続いたので、開花のズレはリカバーされ、収穫している間にぶどうはどんどん熟度を増していきました。熟したぶどうなのにもかかわらず、酸味が十分にあり、アロマも豊か。2008年は特別」というのがその理由だ。

 アルコール度数、pH、酸度など化学的分析結果でみると2008年は1988年ヴィンテージと似ているとのこと。1988年は酸味が豊かでエレガンスかつ強さを備えた良年だった。

 長期熟成タイプのシャンパンとして、2008年ヴィンテージには大いに期待がもてそうだ。

〈注〉

※1:1939年、ローラン・ペリエを買い取ったマダム・マリー・ルイーズ・ド・ノナンクールは第2次世界大戦中もメゾンの経営を続けていたが、この時点で、シャンパーニュ・メゾン100社のうち、98位というどん底状態にあった。次男であるベルナール・ド・ノナンクールは大戦中レジスタンスとしてドイツ軍と戦った後、メゾン再建の意志を固め、フランスに帰還。従来と違うユニークな発想等で存在感をアピール。業界第3位のシャンパン・ブランドに成長させた。

※2:シャンパーニュ地方の319村のうち、グラン・クリュは以下の17村のみ。シルリー、マイィ、ピュイジュー、ヴェルズネイ、ヴェルジー、ボーモン・シュル・ヴェスル、アンボネイ、ブージー、ルーヴォワ、トゥール・シュル・マルヌ、アイ、シュイィ、オイリー、クラマン、アヴィーズ、オジェ、ル・メニル・シュル・オジェ

    ◇

【お薦めアイテム】

▽書籍

▽シャンパーニュ

  • ローラン・ペリエ グラン・シエクル
  • 同 アレクサンドラ・ロゼ1998
  • 同 ロゼ・ブリュット
  • 同 ブリュット・ミレジメ1999
  • 同 ウルトラ・ブリュット
  • 同 ブリュットL−P

プロフィール

青木冨美子(あおき・ふみこ)

NHK、洋酒メーカーを経て、現在フリーランス・ワインジャーナリスト
2009年5月シャンパーニュ騎士団「シュヴァリエ」受章
ワイン本の執筆や監修、企業向けのワイン講師。『昭和女子大学オープンカレッジ』、『ホテルオークラ ワインアカデミー』、『エコール・プランタン』専任講師
1999年3月から2006年3月まで(社)日本ソムリエ協会理事。2003年3月から2009年3月まで、機関誌『Sommelier』の3代目編集長として活動。
著書に『おいしい映画でワイン・レッスン(講談社)』、執筆協力『ワインの事典(柴田書店)』、監修『今日にぴったりのワイン(ナツメ社)』など。2008年11月にリリースした『映画でワイン・レッスン(エイ出版社)』好評発売中!

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