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フランス発 獲れたてシャンパーニュ・リポート

映画007のジェームズ・ボンドが惚れ込んだシャンパン『ボランジェ』

2009年5月29日

  • 筆者 青木冨美子

写真007に登場するシャンパンシーン満載の特製DVD写真剪定前のヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズの第2プロット。“取り木”はこの長く伸びた枝を地中に埋めて増やします写真スペシャル・キュヴェ用のリザーブワインはマグナムボトルで保存。ホチキスを意味するアグラフーズ(agrafeuse)という名のコルク栓にも注目です写真ボランジェといえば“樽”、ヴァン・クレールの試飲会場にもたくさんの古樽がありました写真樽で仕込んだアイ(AY)のヴァン・クレール、口中に重厚さが残りました!

■007の名シーンがたっぷり入った特製DVD

 “映画とワイン”をライフワークにしている私にとって貴重な情報源となるDVDをボランジェ社からいただいた。初代ボンドのショーン・コネリーから6代目のダニエル・クレイグまでがかかわったシャンパンがテーマ曲とともに次から次へと登場してくるので007ファンにとっては大満足の内容だ。映画のシーンは著作権の問題があり使用許可をもらうのが結構大変だが、映画会社と特に親しい関係にある同社だから成し得たことなのだろう。

 ボランジェ社のシャンパンを最も多く消費している国と言えばイギリス。主人公ジェームズ・ボンドが映画の中でボランジェをオーダーする場面が多いのもイギリス人だからこそ、なのか。いずれにしてもボンドがボランジェのシャンパンの偉大なる広告塔であることに間違いはない。

■自根のぶどう樹ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ

 ボランジェ社訪問の目的は三つあった。ひとつ目はヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ(VVF)の畑見学だ。メゾンの裏手にある粘土石灰質土壌の第1プロットと第2プロットには自根のぶどうが植えられている。実はブージーに三つ目の畑があったのだが、2003年にフィロキセラ(※1)の被害を受けやられてしまったそうだ。総栽培面積0.60ヘクタールだったものが、今や0.41ヘクタール。1ヘクタールあたり6000キロ程度の収量なので、生産量は1998年ヴィンテージで2695本。畑が二つになってしまった2003年以降はさらに生産量は減るだろう。

 ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズは“プロヴィナージュ”と呼ばれる独自の方法でぶどう樹を増やしてきた。これは“取り木”を意味する言葉である。有名なロマネ・コンティの畑でも1945年の収穫までプロヴィナージュを行っていたという記述がある。上から二枚目の画像は剪定前のぶどう樹なのだが、この長い枝を利用して取り木を行う。

 “挿し木”と“取り木”の違いについて、エノログの安蔵光弘氏は、「プロヴィナージュはぶどう樹を増やす方法のひとつです。枝を切り取って土に挿すのが挿し木。枝を切り取らずに母樹(元の樹)につながったまま、枝の一部を土に埋める方法が取り木。土に埋めた部分から根が出るので、根が出た後に切り離します。挿し木の場合は、短い枝に蓄えられた養分で発根と発芽のエネルギーをまかなわなければならないのに対し、取り木の場合、母樹から養分が常に供給されているので、発根する率は高くなると思われます。切り離す前の取り木の枝は、“へその緒”のようなものと言えます」と解説している。へその緒! 納得できる例えである。

 フィロキセラの脅威にさらされながらも自根で頑張るヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズのぶどう樹。樹齢の古さ、歴史的意義、それだけでも存在価値は十分に高い。

■スペシャル・キュヴェのリザーブワインはマグナムボトルで!

 二つ目はボランジェ社の顔ノン・ヴィンテージ(NV)『スペシャル・キュヴェ』の熟成方法のチェックだ。同社では木樽と小容量のステンレスタンクで第一次発酵をさせているが、リザーブワインについてはマグナムボトルで熟成させたものを使っている。画像にあるのがリザーブワインの一例。黒板にはクリュ:アイ、瓶詰めした日時:2007年3月27日、数:3600本と記してある。これらはすべてマグナムボトルで栓も天然コルクを使ってしっかりと打栓され、ワインはカーブで静かに眠っている。

 スペシャル・キュヴェの中心となるワインは直近2年分のもので、それぞれ45%ずつ使われている。残り10%は10年分のマルチヴィンテージで、このマルチヴィンテージに使われるワインがマグナムボトルで熟成させているシャンパン、すなわちリザーブワインなのだ。NVながらスペシャル・キュヴェが深みのある味わいなのはこのような独自のスタイルによるものだからであろう。

 さらに重要なことがある。それは樽の存在だ。樽についてはボランジェグループのシャンソン・ペール・エ・フィスのものを使っているが、購入は年に数える程度とのこと。実際には多くの古樽がメゾンのなかにある樽工房で管理、補修されながら丁寧に使われている。驚くべきことに古いものでは80年から100年も経過しているそうだ。樽を扱うスタッフの動作を見ていても、古樽への思いやり、樽使いの上手なシャンパンメゾンとしての自負がしっかり伝わってきた。また、トレーサビリティーに関しては各樽に添付されているバーコードで管理されているそうだ。

■ワインの生地の旨さが光るヴァン・クレール

 そして最後。三つ目の目的がヴァン・クレール体験だ。2日間にわたる『DEGUSTATION DES VINS CLAIRS DE LA VENDANGE2008』とうまく重なったので、私は初日に参加することができた。フランス国内のワイン関係者が300人ほど集った盛大なテイスティングには、シャルドネ7アイテム、ピノ・ムニエ1アイテム、ピノ・ノワール6アイテムの計14のヴァン・クレールがマグナムボトルで用意されていた。その背後には各クリュの各テロワールが細かく明記されたパネルが飾られ、テイスターには至れり尽くせりの態勢だった。

 アイ村にメゾンがあるボランジェ社では、自社および買い付け双方の85%がグラン・クリュ(※2)とプルミエ・クリュだが、自慢すべきはやっぱり“アイ”なのだろう。ステンレスタンク発酵と樽発酵のヴァン・クレールがあり、味わいの微妙な違いを知ることができた。前者は煮詰めたリンゴやアーモンドのニュアンス、後者はスモモやアプコットのような酸を予感させる香りで、味わいには梨や白桃のような果実風味があり、複雑で長い余韻が印象的だった。試したヴァン・クレールはすべてピュアで、2008年の特徴であるフレッシュな酸が生き生きしていて生地の旨さが光っていた。

 今回学んだこと、それはボランジェのシャンパンはジェームズ・ボンドだけでなく、ボンドガールも惚れ込む味わいということだ。なぜって、ベースには“アイ(愛)”があるから、な〜んて(笑)。

※1:ブドウネアブラムシ。ぶどうの根に寄生し、根をこぶ状にしてぶどう樹を死に至らしめる。フィロキセラに強い「アメリカ産台木」を接き木することで対策効果あり。

※2:シャンパーニュ地方の319村のうち、グラン・クリュは以下の17村のみ。シルリー、マイィ、ピュイジュー、ヴェルズネイ、ヴェルジー、ボーモン・シュル・ヴェスル、アンボネイ、ブージー、ルーヴォワ、トゥール・シュル・マルヌ、アイ、シュイィ、オイリー、クラマン、アヴィーズ、オジェ、ル・メニル・シュル・オジェ。

    ◇

【お薦めシャンパン】

  • ボランジェ スペシャル・キュヴェ・ブリュット
  • 同 ラ・グランダネ1999
  • 同 ラ・グランダネ・ロゼ1999(ただ今、在庫切れ)

*7月頃より新ヴィンテージ2002年をリリース予定
問い合わせ先:JFLA酒類販売(株)アルカン事業部(03)3664−6591
同 R.D.エクストラ・ブリュット1997
同 ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ1999

プロフィール

青木冨美子(あおき・ふみこ)

NHK、洋酒メーカーを経て、現在フリーランス・ワインジャーナリスト
2009年5月シャンパーニュ騎士団「シュヴァリエ」受章
ワイン本の執筆や監修、企業向けのワイン講師。『昭和女子大学オープンカレッジ』、『ホテルオークラ ワインアカデミー』、『エコール・プランタン』専任講師
1999年3月から2006年3月まで(社)日本ソムリエ協会理事。2003年3月から2009年3月まで、機関誌『Sommelier』の3代目編集長として活動。
著書に『おいしい映画でワイン・レッスン(講談社)』、執筆協力『ワインの事典(柴田書店)』、監修『今日にぴったりのワイン(ナツメ社)』など。2008年11月にリリースした『映画でワイン・レッスン(エイ出版社)』好評発売中!

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