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グラスはワインの“大きさ”に合わせて選ぶ

2010年5月31日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第20巻(週刊モーニング連載中)

 シニアワインアドバイザーの本間敦氏は、漫画「神の雫」の登場人物・本間(イタリア)長介のモデルである。長介と同じく巨漢で、豪快な飲みっぷりもよく似ているが、ワインに対する造詣の深さもまた、勝るとも劣らない。その本間氏と、先日イタリアの自然派ワイナリー「サルケート」の輸出部長氏を囲んで、真っ昼間から飲んだ。

 この日、輸出部長氏はトスカーナの葡萄品種・サンジョヴェーゼを中心とした自社のワインを3種類、私たちに試飲させてくれた。そのなかのトップキュベ「サルコ・エヴォルツィオーネ・ヴィノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」は、まだ市場に出ていない05年と、現行ビンテージの03年だった。なかなかにマニアックな、貴重品である。

 ちなみに2003年は、ヨーロッパ全土が猛暑に苦しんだ年だ。イタリアの多くのワイナリーがそうであったように、この年はサルケートも日照りで葡萄が干からびたりして、収穫量が激減した。そのため、03年は通常のビンテージより果汁が凝縮され、濃厚なワインに仕上がったという。

 最初は、イタリア赤ワイン用として定番の、小振りなキャンティ・グラスでこのワインを試飲した。サルコはトップキュベらしく酒質がしっかりしていて、複雑さもある。しかしそれだけに、03年はサンジョヴェーゼの持つ強いタンニン(渋味)がかなり強く感じられ、いかにも重々しい味わいだった。ところが本間氏は「グラスを替えてみましょう。このワインは大柄だから、もっとでかいグラスで飲んだ方が美味い」と、ブルゴーニュ・ワインに使う大きなボウルのグラスを注文した。すると、替えてビックリ、まるで窮屈な洋服からぴったりあう服に着替えたときのように、ワインが生き生きと活気づき、重々しい渋味が和らぎ、香りがたちはじめ、本来のポテンシャルを発揮し始めた。イタリアワインにブルゴーニュグラスという組み合わせに最初は「えっ?」と思ったが、さすがはイタリア長介、ワインの本質を鋭く見抜いている、と感心させられた。

 それから数日後のこと。来日していた高級シャンパーニュ「ドン・ペリニヨン」の醸造最高責任者・リシャール・ジェフロワ氏に会うため、私と弟は彼の滞在するホテルを訪ねた。ジェフロワ氏は今年発売予定のドン・ペリニヨン・ビンテージ2002年と、現行ビンテージの2000年を気前良く試飲させてくれたが、「このグラスは泡立ちが荒い」といって交換させたり、グラスに対して細部までこだわっている様子だった。そして「シャンパーニュをフルートグラスで飲む人は多いが、あのグラスがベストではない」という話を始めた。細長いシャンパン用フルートグラスは、泡が立ち上るのを眺めるには最高だが、スケールの大きいワインをこれに入れると“細長い型”に納まってしまうのだそうだ。だから、ドン・ペリニヨンのオリジナルグラスは、ボウルが丸く大きめで、ワインがたっぷり入る。このグラスで飲んだ02年は、しなやかでしっかりとした骨格が手にとるようにわかり、緻密さ、複雑さも際立って感じられた。細長いフルートグラスでは、確かにこの卓越したシャンパーニュの全貌は、見えてこない気がする。本間氏が指摘したように、重厚で奥深いイタリアワインが小振りなキャンティグラスには収まり切れないのと、よく似ている。

 人間も、既成サイズの洋服が合う人と、合わない人がいる。自分の体に合った服を着れば生き生きと快活になるように、ワインもポテンシャルやスケールに合ったグラスに注いでやると、その本領を発揮することがあるようだ。ボルドーはボルドーグラスで、と定番にこだわらず、ワインの「サイズ」を見定めてグラスを選んでみると、思いも寄らぬ美味しさを発見できるかもしれない。

■今回のコラムに登場したワイン関連商品

  • サンジョヴェーゼ

  • ドン・ペリニヨン

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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