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メイドイン・ジャパン『甲州ワイン』の魅力

2010年8月9日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第20巻(週刊モーニング連載中)

 先日、週刊誌をパラパラみていたら、「甲州種ワインが欧州デビュー」という見出しが踊っていた。『神の雫』でも一度紹介した山梨のワイナリー「中央葡萄酒」が、2千本もの甲州白ワインをイギリスに出荷した、というニュースである。添付された写真には「甲州」の文字がさん然と輝いたラベルが、大写しになっている。それを見て「そうだ。この3月から甲州葡萄のワインが、ラベルに品種名を入れられるようになったんだっけ」と、甲州ワインにまつわる事情を思い出した。

 それはつまり、こんな話である。

 EUに輸出するワインに関しては、OIV(葡萄・ワイン国際機構)に登録された葡萄品種以外は、ラベルに表示できないという決まりがある。たとえばメルローやカベルネ・ソービニヨンなどフランスでおなじみの葡萄はもちろん登録品種だが、日本固有品種で、平安時代から食用葡萄として栽培されてきた甲州は、これまでワイン用葡萄としての登録が認められなかった。

 だから、今までフランスに輸出してきた中央葡萄酒の甲州ワインも、ラベルに品種名をいれられず『sizen』などと命名していた。中央葡萄酒に限らず、本格的な辛口の甲州ワインを懸命に造っている日本のワイナリーは、さぞ無念な思いだっただろう。

 ちなみに甲州がワイン用に栽培されるようになったのは、明治時代のことだ。これらはおもに安価な甘口ワインや、他種とのブレンド用に使われることが多かった。ところが酒類の輸入・販売規制緩和に伴う輸入ワインの普及によって、こうした需要が激減。99年度には年間7500トンだった収穫量が5年間で5000トンも減ってしまったという。そうしたなかで、フランス式の醸造方法で作られた甲州の辛口白ワインだけは、徐々に市場を拡大している。国内だけでなく、フランスや今回の輸出先となったイギリスでも、フランス産のシャルドネのワインとはまた違った甲州の魅力が認められてきているのだ。

 さて、そんな甲州葡萄で造られたスパークリングワインを、このたび『神の雫』の取材で、ひととおり試飲することになった。

 試飲に際しては、瓶内二次発酵というシャンパーニュと同じ工程を踏んで造られた本格派の甲州スパークリングに絞ったが、濁りがあるものや、酸味と果実味のバランスの悪いものが多く、正直シャンパーニュのように粒揃いというわけにはいかなかった。それでも「アルガブランカ・ブリリャンテ」(勝沼醸造)という飲み応えのあるスパークリングが見つかったので、これを漫画で取り上げることに決めた。そして数を飲んだおかげで、辛口甲州ワインの魅力というものが我々にも何となく理解できた。 

 それは一言でいうなら“澄んだ水に似ている”ということである。たとえばフランスの白葡萄シャルドネでつくられたワインは、香りも豊かで優美な味わいだが、おおむね輪郭がはっきりしていてミネラルも酸も強めである。これに対して日本の甲州ワインは、主張は決して強くないが、谷川の清流のように透明なクセのない味わいで、香りも控えめで料理の味を邪魔しない。私はシャルドネの白ワインで和食を食べることもあるが、繊細な昆布のダシを使った京風料理などには、香りが強いシャルドネのワインより甲州の辛口白ワインが合うと思う。さらにいえば、味も香りも主張が強くなりつつある近年の吟醸酒と比べても、和食には、辛口甲州ワインのほうが似合っている気がした。

 「個性」や「主張」は、強ければ良いというものではない。これからはヨーロッパの人々にも、清水のような甲州ワインと、繊細で奥深い和食という日本らしい“食のマリアージュ”を、大いに楽しんでもらいたいものである。

■今回のコラムに登場したワイン関連商品

  • アルガブランカ・ブリリャンテ

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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