2010年9月8日
(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第14巻(週刊モーニング連載中)
先日、クレジットカードの明細書をみたら、ドキッとするほど大金が引き落とされていた。それで思い出した。初夏の頃から始まった09年ビンテージのボルドーワインを「プリムール」(先行予約)でガンガン買って、散財しまくったことを。それにしても、グレートビンテージだった00年や05年も、プリムールでワインを買ったが、これほど金はかからなかった。肝心のワインはまだ樽のなかで熟成中で、実際に手元に届くのは再来年のことだというのに、09年ボルドーの高騰は今もなお止まるところを知らない……。
09年は、ボルドーのみならずフランス全域で葡萄は豊作だった。初夏から順調に暑くなり、真夏は雨がさほど多くなく、収穫時にはカラリと乾燥するという、ワイン造りには理想的な一年であった。昨年 9月に我々がボルドーを取材旅行した時も、「今年は82年以来の素晴らしい出来ばえ」という声をあちこちのシャトーで聞いた。その時から09年のフランスワインは値上がりするだろうと予想はしていたが、著名評論家のパーカー先生が熟成中の有力シャトーのワインを試飲して「09年は私がボルドーを取材してきた32年間に試飲した中で最良のヴィンテージになるかもしれない」とぶち上げ、21シャトーに百点満点をつけたことで、ボルテージが一気に上がった。
5月にプリムールがスタートするや、1級シャトーの「ラフィット・ロートシルト」は05年の1.5倍の値段をつけ、セカンドワインの「カリュアド・ラフィット」は9割高、つまり倍近い初値をつけた。イギリスのインターネット・ワインマーケット「Liv−ex」によれば、09年のトップ60銘柄は08年に比べて71%値上がりし、05年を23%上回るという。お付き合いのあるワイン商社の担当者さんも「時々刻々、値段が上がります」と興奮気味に電話をかけてきた。背中に冷汗をかきつつも、明日より今日の方が安いという言葉にひきずられ、気がつけば山ほど09年ボルドーワインを予約してしまい“プリムール貧乏”になっていた。嗚呼……。
ところで、そんな話を女友達にしたところ「2年も待たなければ手に入らない商品を高いカネで買うなんて!」と目を白黒させていた。2年後にそのワインが万が一値下がりしたら大損だ、と彼女はいう。こと買い物に関して、女はやはり現実的である。しかし、値下がりは100%ない、と私は思っている。
プリムールは、ボルドーにおいては伝統的なワインの取引形式である。ワインは醸造から18カ月〜24カ月の樽熟成を必要とするので、生産者はその間の資金繰りに苦しむ。だから、樽の中にワインが眠っている間に先行予約販売を初めて、資金を補填するわけだ。一方、先行予約で買うバイヤーは入荷まで2年も待つのだから、値段的なメリットがほしい。そこで生産者は最終卸値よりもずっと安い価格をプリムール価格として特別に設定するのである。このプリムール価格は、1回目の売り出し「プルミエ・トランシュ」がもっとも安値で、そこからは段階的に値上がりし、市場に出回る頃には何倍かの値段になっている。05年を例にとると、ラフィットは1回目の売り出し価格と比べて、最終的な市場価格はなんと5倍に膨れ上がっていた。
もっとも、私は投資目的でプリムールワインを買ったわけではない。あくまでも自分の趣味のためである。再来年現物が届いたら、さらに10年ほど熟成させて、世紀のビンテージの天にも昇る味わいをワイン仲間と楽しみたい。想像するだけでうっとりする。
……が、件の女友達がさらに言う。「2年+10年で12年後の話?あんた、飲み過ぎで肝臓やられて、あの世にいってるかもね」。 そんな悲劇が起きぬよう、肝臓の検査だけはちゃんとやろうと思う昨今である。
■今回のコラムに登場したワイン関連商品
極上スイーツがよりどりみどりで大人気のデパ地下グルメ。でも、デパートまでわざわざ足を運ぶのはちょっと大変…。そんな時は迷わずインターネットでお取り寄せ! 家にいたまま楽しめる、全国の人気デパ地下スイーツをご紹介。
暑い夏に食べたくなるのは、やっぱりカレー。激辛タイプだけが注目されがちだが、うまみの効いたマイルドタイプのファンも多いはず。そこで、辛さではなくうまみに注目して選んだ味わい深いカレーをラインアップ。強い辛さが苦手な人に、ぜひ味わってほしい。