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コラム「神の雫」作者のノムリエ日記

思い出深いワイン「シャトー・モン・ペラ」

2007年06月14日

 作者の意図したことではないのだが、『神の雫』に紹介されたワインは最近、怒濤(どとう)のように売れ、市場からきれいに姿を消すらしい。『神の雫』は毎週木曜発売の週刊モーニングに連載しているので、近頃は木曜になるとネットショップから『シャトー××がついに神の雫に登場!』などといったメルマガが配信されてくる。なんだか我々も責任が重くなってきた感じだが、漫画で取り上げたワインは、すべて姉弟で試飲している。だから神の雫でホメているのにまずかった、という事態は(劣化などは別として)まずないと思う。

漫画(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第1巻(週刊モーニング連載中)

 ところで、こうして神の雫に載ったワインがよく売れるようになったのは『シャトー・モン・ペラ』01年が嚆矢である。このワインを紹介したのは連載開始後3週間目で、作品の知名度は全然なかったのに、ネットショップが「漫画・神の雫に登場!」と盛り上げて、モン・ペラはガンガン売れだした。そしてそれがきっかけになり、神の雫の認知度も急速に高まった。だからモン・ペラは我々にとって非常に思い出深いワインでもあるのだ。

 そもそも我々がモン・ペラに注目したのは比較的マイナーな産地のワインなのに、フランスの著名なワイン評価誌で3年連続の受賞を果たしたり、ドイツのワイン専門誌で『シャトー・マルゴー』を抜いて1位を受賞したりという話を知ったからだ。でも値段は2500円以下と安い。マニアなら誰でも興味をそそられるワインである。試飲をしてみると昔ながらの造りだが、みずみずしい若さと、圧倒的な果実のパワーが感じられた。

 「古典的だけど、新しい味か……」「あっ、クイーンなんてピッタシじゃない?」ということで、イメージもすぐ決まった。(我々姉弟は昔からクイーンのファンなのである) このモン・ペラ、漫画でも紹介した01年は秀逸だ。00年のオーパス・ワンとも実際に比べてみたが、香り、凝縮感、複雑さ、すべてにおいてモン・ペラの勝ちであった。ちなみに仲間うちのワイン会でブラインド(目隠し)テイスティングをやったところ、某ソムリエ氏がモン・ペラを飲んで「旨い!5大シャトーでしょ?」と叫んだ。これにはさすがに驚き、姉弟で顔を見合わせてしまったが……。

 その後、輸入業者を通じてモン・ペラの生産者、ティボー氏とも会うことが出来た。ティボー氏はワインのことばかり考えているきまじめな人物で、手間のかかる手摘みをやり、1本の葡萄(ブドウ)の木から6〜8房までに収穫量を絞り、長い熟成期間を設けてワインを造っていた。当然、そんなワインがまずかろうはずがないが、「手間をかけて2000円台では採算が合わないのでは?」と問いかけると、「まあね。でも高くしたくないんだ。安くして、もっとたくさんの人にワインを楽しんでもらいたいよ」と、屈託のない笑顔で答えた。

 神の雫への登場を契機に、モン・ペラの市場価格は今、上昇気味である。でもショップによっては辛うじて2000円台をキープしている。これはきっとティボー氏が「高くするなら売らないよ」と輸入業者を牽制(けんせい)しているからだろうと、我々は勝手に想像している。

 さて、秋にもリリースされるであろうモン・ペラ05年であるが、メルロー大当たりの年ということもあり、「過去最高傑作だよ!」とティボー氏が胸を張っていた。試飲する日が今から楽しみである。

■今回のコラムに登場したワイン

  • シャトー・モン・ペラ 
  • シャトー・マルゴー 
  • オーパス・ワン 

プロフィール

亜樹直(Agi Tadashi)
講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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