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ワインは『時間のマリアージュ』が大事2007年06月28日 つい先日、地元のおいしいイタリアン・レストランにワインを持ち込んで、ディナーとしゃれこんだ。何を持っていこうか思案したが、やはりイタリア同士を合わせようと思い、『パレオ・ロッソ』00年を持参した。
ちなみにこのワインは01年からは、ソフトな口当たりの葡萄(ブドウ)品種「カベルネ・フラン」100%のワインに生まれ変わったが、00年までは力強く骨太な葡萄「カベルネ・ソービニヨン」を70%前後ブレンドした、究極の長熟型ワインであった。実はこれを選んだのは私のミス。私は00年もフラン100%だと勘違いしていて「デキャンタをすれば、わりとすぐ飲めるかな」と思い込んでいたのだ。 この勘違いが致命的だった。グラスで軽くティスティングしてみると渋くて渋くて、飲めたものではない。カベルネ・ソービニヨンが70%も入っているのだから当然である。レストラン、しかもフランス料理より早食いを強いられるイタリアンの店に、こんな堅牢(けんろう)なワインを持ちこんだことを猛烈に後悔した。 すぐにデキャンタを頼んだが、デキャンタ1発ではビクともしない。同席した友人はグラスをぐるぐる回しながら「まだ渋いよ。いつまで待てば開くの?」とウンザリ顔だ。 まったく、ワイン選びをうっかり間違うと楽しい食事が台無しになる。パレオ・ロッソ00年は上質なワインであるが、超・長熟型の設計なので、本来の素晴らしさが味わえるまでに途方もない時間を要する。結局、渋さに閉口し、食事が終わってもワインを飲みきることができず、デキャンタの中にかなり残したまま、席を立った。帰り際に店のソムリエから「あのワインが飲み頃になるのは、明日か明後日でしょうね」と同情を込めて言われた。まったく、その通りである。 ちなみにフランスの星つきレストランなどのコース料理は、小さな皿が3時間以上かけてちょっとずつ出てくる。先日取材に赴いたブルゴーニュの1つ星レストランでは、お客たちは皆、夜8時過ぎからコース料理を頼み、午前0時すぎまで延々と食べていた。日本ではフルコースを頼んだとしてもせいぜい2時間程度ですべてが腹の中に収まるが、フランスでは倍の時間がかかる。当然、食事に合わせてワインもゆっくりと飲むことになるが、これほどスローペースだと、堅牢なワインもさすがに開いてくれる。本格的なフランス料理には、フランスの古典的な造りの長熟型ワインがやっぱり合うんだな、と納得した。 そういう風に考えると、例えば飛行機の中で出て来るワインは早食い必至の機内食にぴったりのものばかりである。フランス出張で利用した航空機のビジネスクラスでは、フランス西南部・ラングドック地方の、渋みの少ない甘めのワインや、ブルゴーニュの中でも酸味が少なく、柔らかな飲み口のメルキュレィなどがサービスされた。いずれも値段はお安くカジュアルなワインではあるが、抜栓してすぐ開く早飲みワインで、機内食の速度に非常にマッチしていた。 自宅でワインを飲むなら「開くまで待つ」のも一興だが、レストランでワインを飲む時は、料理とのマリアージュを考えるだけでは、私のような失敗をしてしまう。ひょっとしたら味わい以上に、「ワインが開くまでの時間」と「食事の所要時間」をマリアージュさせることが重要なのかもしれない。 ■今回のコラムに登場したワイン
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