現在位置:asahi.com>食>コラム>「神の雫」作者のノムリエ日記> 記事 ![]() レストランのワインは高すぎる?2007年07月05日 久々に会う友人たちと、都内の某フレンチ・レストランでランチをした。女性ばかり4人だったが、みんなワインをたしなむ。目当てのレストランのHPには「ワインもご用意しています」と書かれていたので、どんなワインを飲もうか、私もちょっと楽しみにしていた。ところがリストを見て、あまりの値段の高さにビックリ仰天した。
例えば市価2000円前後の「CHボーモン」が1本8500円という価格で載っている。CHボーモンは若いうちから楽しめる柔和な酒質のワインで、コスパの高いお薦め銘柄ではあるのだが、8500円とは……。 「おいしいかもしれないけど、もとの値段を知ってると、注文できないわね」と友人がボソリという。確かにショップで買う価格の4倍以上すると思うと、私も頼む気がしない。 リストを眺めながら悩んだあげく、我々は6800円という価格の、私も飲んだことのない銘柄のワインを注文した。1本6800円のワインは5人で飲めば1人およそグラス2杯分=1360円だが、庶民にとっては決して安くない価格だ。ところがこのワインは奥行き感も複雑さもなく、後味に好ましくない雑味が残る明らかなB級品。おいしいワインを飲むぞ!と意気込んでいた友人たちは、肩すかしをくらった様子であった。 ある酒関係の流通業者によれば「レストランのワイン価格は市価の3倍が目安」だという。これはフランスの高級レストランに習っての価格設定だそうだが、それをそのまま日本に並行輸入するのはいかがなものか。例えばフランスの星つきレストランではソムリエがワインの状態をチェックし、頼んだ料理との相性も考えて銘柄をサジェスト、ワインを注ぐタイミングもしっかり見ている。そこまでお任せできるならば3倍価格も許せるが、日本ではソムリエもおらず、ワインを知らないウエーターがただサーブするだけという店も多い。それなのに3倍どころか4倍、5倍近い額でワインを出す店もある。「ワインの銘柄を見ても元の値段はわからないだろう」と思われているような気がして、腹立たしい。それより何より、レストランで1万円近く出して飲んだワインがおいしくなかったら、ワインなんてもう飲むもんかと思うのが当然だ。より多くの人にワインの奥深さ、楽しさを知ってほしいと思う我々にとって、この状況は本当に悩ましい。 我々姉弟の住む吉祥寺には、ソムリエが経営する小さなフレンチ・レストランがある。この店は、市場価格とほぼ同じ値段でワインを出す。ユーロが高騰する前の古いワインだと、逆に安かったりもする。持ち込みもOK。「ワインを楽しんでもらえるなら、形はなんでも良い」というのがオーナーのスタンスなのだろう。こういう店が増えていけば、ワインの楽しさももっと広まるのに、と思う。 ワインに限らず、出したお金に見合った幸福感を得たいと思うのは、しごく当然のことだ。ワインを3倍、4倍の価格で飲ませるなら、せめて「高くてもおいしい」と思えるように、ワインを厳選してほしい。ソムリエがいないなら従業員が、料理との相性を理解し、多少はワインを語れるように、啓蒙(けいもう)してほしい。でないと「記念日にはレストランでおいしいワインを飲む」という庶民の夢が、どんどん小さくなり、むなしくなっていくような気がするのである。 ■今回のコラムに登場したワイン
プロフィール
|