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コラム「神の雫」作者のノムリエ日記

ブルゴーニュの日本人醸造家

2007年07月26日

 5月のブルゴーニュ取材から帰還して、そろそろ2カ月。暑苦しい東京にいると、かの地のきりっと冷えた空気が無性に懐かしくなってくる。というわけで思い出しついでに、今回は取材でお世話になった日本人醸造家・仲田晃司さんのことを書くことにする。

写真(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第9巻(週刊モーニング連載中)

 実はこの取材では、04年のボルドー取材と同様、アポ取りが難航した。というのも、我々が滞在する5日間の中に、日曜日と祭日が含まれていたからである。フランス人は日曜祭日は仕事をしない。ブルゴーニュの生産者もみんな休暇をとっており、あらかじめ予定を組んでいたアルベール・ビショー社以外は、取材は無理そうな状況だった。そんな我々を助けてくれたのが、仲田さんである。仲田さんは親交のあるエマニュエル・ルジェ、ジャック・カシューなどの生産者に声をかけてくれ、取材のアポをとってくれた。また仲田さん自身も休暇を返上して、韓国人の奥様・朴在華(パク・ジェファ)さんと一緒に我々の取材に付き合ってくれた。お二人の助力なくしては、今回の取材はこれほど充実したものにならなかった。本当に感謝しきりである。

 いま仲田さんはブルゴーニュのジュヴレ・シャンベルタン村に住み、ネゴシアン(畑を持たず買い葡萄でワインを造る醸造者)としてワインを造っている。仲田さんのブランド「ルー・デュモン」は世界的に人気が高まってきており、『神の雫』では「ムルソー03年」をゴッホの名作『花咲くアーモンドの小枝』にたとえて紹介した。またフラッグシップの特級畑「シャルム・シャンベルタン」は、この村の有名生産者にひけをとらないくらい美味で、複雑さと優雅さを兼ね備えたワインである。

 仲田さんご夫妻は大変仲のいいおしどり夫婦だが、面白いことにキャラは正反対。静かな声で語り、何事も控えめな仲田さんに対して、6歳年上の在華さんは社交的で行動的、誰とでもすぐ打ち解けるタイプだ。在華さんが「晃司〜!」と呼ぶと、仲田さんが穏やかなニコニコ顔で現れるのもほほ笑ましい。パリで知り合ったという二人の日常会話はフランス語と日本語のチャンポンだが、会話などなくても阿吽(あうん)の呼吸で意思が通じている感じだ。

 誰に対しても腰が低く、決しておごらない仲田さん。でもワイン造りに対しては非常にシビアで、ネゴシアンの立場をよく理解し、合理的な仕事をしている。たとえば『神の雫』で紹介したムルソーについて、「03年はブルゴーニュが猛暑で苦しんだ年だが、品質の高いワインを造るためにどんな工夫をしたのか」という質問をしたことがある。

 すると仲田さんからは「暑すぎた年は、日照が悪く寒い場所にある畑の葡萄を、あえて買いつけるんです。通常の年は、こういう畑の葡萄は酸っぱくて果実味が乏しいが、猛暑の年の場合は逆に、適度に酸味のある腰の強いワインができる」という答えが返ってきた。なるほどと感心した。ネゴシアンは、畑に自分の意図が反映できないため不利な点も多いが、こういう苦しい年には意外な強みを発揮するというわけだ。

 温和で優しい人柄ながら、醸造家としては厳格で、目利きでもある仲田さん。決して主張の強い造りではないが、柔和でエレガントな酒質で、どのビンテージにも安定したレベルの高い味を提供してくれるルー・デュモンのワインには、そんな仲田さんの人間性がよく現れているような気がする。

■今回のコラムに登場したワイン

  • ルー・デュモン 

プロフィール

亜樹直(Agi Tadashi)
講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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