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コラム「神の雫」作者のノムリエ日記

飲むのがツライ時もある

2007年09月06日

 ワイン漫画の原作をやっていると、「ワインを飲むことが仕事なんて羨ましい」とよく言われる。確かに我々姉弟にとってワインはそもそも共通の趣味であったし、楽しんで仕事をしている面もなくはない。

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第4巻(週刊モーニング連載中)

 が、そんな我々も「もう飲みたくない」と本気で思うことがある。例えば「フランス対イタリアワイン対決」の時の、安ワイン探し。

 単行本4巻に収録されている「フランスVSイタリアワイン対決」は、主人公・神崎雫と“イタリアの怪人”本間長介が、それぞれ一押しのワインを3本ずつ持ち寄って、伊・仏ワインのどちらが優れているかを競い合うというストーリーである。この一編は本間長介、ことイタリア長介のキャラクターを定着させるための大事な局面でもあったため、登場させるワインも、読者の注目度が高い3000円以下の価格帯に絞ることにした。

 登場させるイタリアワインに関しては、1本は我々のお気に入り『ロッジョ・デル・フィラーレ』で行こうと決めていた。それ以外は、本間長介のモデルで実在のソムリエ・本間敦氏の協力を得て、美味しい安イタリアワインを見つけることができた。フランスワインも3000円台、2000円台はすんなり決まった。ところが、読者を納得させられるほど美味い1000円台のフランスワインが、なかなか見つからなかったのである。

 3000円台がボルドー、2000円台がブルゴーニュなので、1000円台はローヌ・ワインにしたいところだ。我々はネットのワインショップで1000円台のローヌ・ワインを買いまくった。

 宅急便のドライバーがワインを4〜6本詰めた大きな箱を持って、毎日毎日、玄関先に現れる。もちろん中身はすべて1000円ワイン。全部飲んでいたら肝臓が持たないので、試飲だけして吐き出す。残念ながらほとんどが低レベルのワインなので、一口で試飲は終わり。残ったワインは、最初は料理酒に使っていたが、そのうち台所でもワインが余りだし、とうとう排水口に捨てるようになった。ああ、もったいない……。

 本当に、あの安ワイン探しのことを思い出すと、今でもため息が出る。安ワインのボトルが仕事部屋の床にずらーっと並んでいるのを見て、「ワインも趣味から仕事になると、飲むのが辛いこともあるよね……」と、弟とボソボソ愚痴を言い合った。そしてかつてはテーブルワインの産地だったローヌ地方で、安くて美味いワインを探すのがいかに難儀か、つくづく思い知った。だから、サン・コムの『コート・デュローヌ・レ・ドゥ・アルビオン』という素晴らしい安ワインに出会った時は「ヤッター、とうとう決まり!」と、子どものように大喜びしてしまった。

 そして、もうひとつの苦い思い出は、漫画の本編にオマケでつけているコラムで『B級マリアージュ』という企画をやった時である。これはB級グルメ、つまりコンビニ弁当や缶詰のようなお手軽食品と安ワインをマリアージュさせるのがテーマで、科学の実験のようにいろいろな安い食材と安ワインを組み合わせてみた。しかし「見事にピッタリ」というよりは「不味くてビックリ」の組み合わせが圧倒的多数なのである。中でも忘れられないのが、納豆とワイン、そして安いイカのサシミを安ワインと合わせた時。マリアージュとはほど遠い相性の悪さに、吐き気すら覚えた。そして毎週こんな実験をやったら身が持たないと悟ったため、B級マリアージュは大好評だったにもかかわらず、わずか半年余りで一方的に連載を終了させてしまった……。

 かくのごとく、我々も常にワインを楽しんでいるわけではないのだ。時には苦しみ、時には泣き、身体を張って(?)ワインの奥深い世界を探り続けているのである。

■今回のコラムに登場したワイン

  • ロッジョ・デル・フィラーレ

  • コート・デュローヌ・レ・ドゥ・アルビオン

プロフィール

亜樹直(Agi Tadashi)
講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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