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コラム「神の雫」作者のノムリエ日記

劣化ワインはよみがえるのか?

2007年09月20日

 『神の雫』の最新刊(12巻)で、劣化したワインをしばらく放置させてよみがえらせる、というエピソードを紹介した。取り上げたワインはブルゴーニュの偉大な生産者モンジャール・ミュニレ『リシュブール』97年。この逸話は実際に我々姉弟が体験したことでもあるのだが、読者からは「劣化ワインが本当に時間経過でよみがえるのか」といった疑問の声と、「自分もそういう経験がある」という共感の声の両方が寄せられた。

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第12巻(週刊モーニング連載中)

 まったくワインの神秘としかいいようがないのだが、管理温度が高すぎたり、湿度が低すぎてコルクが乾燥したため起こる軽度の劣化は、静かに放置しておくと自然に味がよみがえることがあるのだ。ただ、劣化の中でもブショネと呼ばれるコルク劣化は、古ゾーキンのようなコルクの異臭がワインに移ってしまうので、何をしても復活することはない。

 我々が経験したなかでは、ボルドーの2級シャトー以上、そして「リシュブール」「エシェゾー」など、ブルゴーニュの特級畑ワインは、かなりの確率でよみがえる。最初の一口でピリッとした刺激が舌にきたり、ジビエ香が突出していたり、マディラ酒に似たヒネ香が強かったりなどといった軽い劣化を起こしていても、劣化ワインがグレードの高いものだった場合は、とりあえずボトルを動かさず、少々待ってみたほうがいい。運がよければ1〜2時間後には、多少熟しすぎた味にはなるものの嫌な刺激やヒネ香が消えて、それなりにおいしく飲めてしまったりする。

 ただし、逆のケースもある。10年近く前の話だが、近所のワインショップの閉店セールで、高価なワインをたくさん買い込んだ。その中にはCHムートンやCHラトゥールも入っていた。ところが私は、他のワインはちゃんとセラーに仕舞ったのに、なぜかCHラトゥールだけ紙袋に残したまま、夏を挟んで半年以上も部屋の隅っこに放置してしまった。まったく信じられない大失敗で、紙袋の中にワインを発見したときはサーッと血の気が引いた。ただし、繊細でひ弱なブルゴーニュと違って頑丈なボルドーだし、一級シャトーだからもしかして……と期待したが、飲んだ瞬間「ウウッ」とうなってしまった。果実味が完全につぶれていて、強いヒネ香があり、なんというか、もはや生命力のようなものを感じない。つまり、はつらつとした味がぜんぜん残ってないのである。これは完全にダメだと直感したが、なにしろ高いカネを払って買った五大シャトー、時間経過でよみがえる可能性にかけて、2時間待ってみた。だが結果的には、待っている間にさらに劣化が進み、臭い酸が鼻を突く、ドブのような味になっていた。結局これは、泣く泣く排水口に捨てた……。

 外国産のワインは、我々の口に入るまでさまざまな経路をたどってきている。その途中で、高温の環境下におかれ、劣化を起こすこともある。たとえ1本100万円のグレート・ワインであろうとも、私のCHラトゥールのように生命力50%以下の死に体になってしまうと、決してよみがえることはない。

 せっかくのワインが死に体に成り果ててしまったら、我々飲み手も悲しいし、まじめにワインを造っている生産者も辛かろう。そんな不幸を招かないよう、ワインを売る人も運ぶ人も、そして保管するわれわれ飲み手も、温度管理にはくれぐれも気を配りたい。

■今回のコラムに登場したワイン

  • モンジャール・ミュニレ『リシュブール』97

  • CHムートン

  • CHラトゥール

  • エシェゾー

プロフィール

亜樹直(Agi Tadashi)
講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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