現在位置:asahi.com>食>コラム>「神の雫」作者のノムリエ日記> 記事 ![]() グラスはワインのパートナー2007年10月04日 先日、「面白いワイングラスをたくさん置いている」という評判の店をのぞいてみた。見れば、脚(ステム)がクネクネ曲がっているものや、ボウル部分が四角いもの、グラスの色が不透明な黒や真紅のものなど、デザインはかなり凝っている。インテリア・グッズとしては、面白いといえば面白い。だが、角度を変えて「ワインのパートナーとしてのグラス」という目線でみると――。
まず中身が見えないグラスは問題がある。第一に、美しいワインの色が楽しめない。それにワインが劣化していると、白ワインが妙に琥珀色になっていたり、若いはずの赤ワインが煉瓦色だったりする。これを確かめるために色を見たりもするので、中身は絶対、見えた方がいい。そして、この店の大半を占めている、飲み口が開き気味のグラスもよろしくない。飲んだ時に香りを嗅ぎ取るためには、飲み口の部分が、チューリップのように多少なりとも締まっていなくてはならないのだ。
いろいろと見てまわったが、この店のグラスはワインのパートナーとしては失格のものばかり。「店主は全然ワインをわかってない……」と独りごちて、私は店を後にした。
ワインにハマりだすと、誰しもワイングラスにこだわり始める。私も昔は、結婚式の引き出物で頂戴したブランド物のワイングラスなどを食器棚にずらっと並べていたが、「ワインおたく」になってからはこの手のグラスにまったく魅力を感じなくなり、全部人にあげてしまった。ワイングラスは見た目が美しければいいというものではない。つまり「先にデザインありき」で作られているものはダメなのだ。ワイングラスの理想は「先にワインありき」であり、ワインの魅力を生かしてこそ最高のパートナーといえる。
そうして理想のワイングラスを求めていくと、行き着くところはやっぱりリーデルのワイングラス、になるだろうか。なかでも究極は、最高級のソムリエ・シリーズだ。しかしこれは1脚1万円もして、極薄だから簡単に割れてしまうのが難。弟は、何年か前までは「やっぱりグラスはソムリエじゃないと」などとうそぶき、自宅で開くワイン会にもソムリエシリーズを出していた。だが酔客に割られ、自分も割り……と繰り返すうちに神経を消耗したらしく、ワイン会には少し格下のヴィノム・シリーズを使うようになった。ちなみに私は、自宅でワインを楽しむ時は、リーデルのエクストリームを使う。これも1脚3000円台で決して安くはないが、酔っぱらって割ってもギリギリ許せる値段だと思う。
さて神の雫のために弟と行う試飲は、1脚980円のリーデル・オヴァチュアを使っている。フォルムはワインの美味しさを引き立てるように作られているし、ガラスが厚いので簡単には割れない。機能的にはこれで十分である。ただ何年も使い込んでいると、赤ワインの色がうっすらと移ってしまうのが弱点だ。「ピンク色のグラスじゃ興ざめだから、たまにはソムリエで試飲しよう」という話にもなるが、酔っぱらって割るのでは、という強迫観念が働き、開放的な気分になれない。
ワインの理想のパートナーが、手吹きのクリスタルグラス「ソムリエ」であるのは世界中の誰もが認めるところ。しかしこれは使いまわすより、理想の恋人として戸棚に飾っておいたほうがよさそうだ。割ったらエライことだ、とハラハラして飲むワインは、どんなに美味でも心臓に悪い気がするのである。
■今回のコラムに登場したリーデルのワイングラス
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