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寝ているワインは起こさないで2007年10月11日 フィリップ・シャルロパン・パリゾはアンリ・ジャイエの弟子の一人で、モダンで洗練されたブルゴーニュワインを作る超人気生産者のひとりである。彼のワインは、芳醇(ほうじゅん)な果実の味わいと適度な濃厚さ、そしてエレガントさが身上で、我々のセラー部屋にも、パリゾのさまざまな畑のワインが並んでいる。
そんなパリゾの「ジュヴレ・シャンベルタンV.V.」02年を、リリースされた直後の04年秋に飲んだ。偉大なヴィンテージらしく豊かな果実味にあふれ、優雅で蠱惑的なワインであった。あまりに印象が良かったので、去秋、来客があった折に「これを飲ませたら喜ぶだろう」と抜栓してみた(素晴らしいワインを人に飲ませて、ワインの魅力にはめるのは我々の最大の楽しみなのだ)。 ところがこの時のパリゾ、3年前に飲んだものとはぜんぜん別物だった。果実味がほとんど感じられず、タンニンの後味が舌に残り、冷たく暗い印象で「いったいどうしちゃったの?」とワインに問いかけたくなるような寂しい味になっていた。古ゾーキンのような悪臭や舌にぴりっとくる刺激もないし、色も美しく澄んでいるので、劣化ではない。しかしなぜか「寂しい味」になっている……。これはもしやワインが寝ている状態なのでは、と思いついた。こういう場合は2度デキャンタしてムリヤリ目をこじ開ける方法もあるが、無理やり起こしたワインは、いまひとつ元気がない。眠っているワインは、結局そのまま寝かせておくのが一番なのだ。私はこのワインを起こすのをあきらめ、お客には別のワインを飲ませることにした。 この件以来、私は02年ブルゴーニュをしばらく「封印」することに決めた。そして代わりに、飲み頃になっている90年代後半のブルゴーニュを気前よく開けた。97年あたりはちょうど10年の熟成で、いささか堅牢なジュヴレの一級畑も柔らかく、優しい味わいになっていた。いささかとがり気味だった99年のブルゴーニュも、タンニンが甘く変化していた。 02年の封印を解いたのは、今年の夏のことだ。若いワインはおよそ1年〜1年半の周期で寝たり起きたりを繰り返すといわれているので、そろそろお目覚めの頃かな、と試しに飲んでみたのだ。抜栓したのは、比較的硬い造りのミュニュレ・ジブール「クロ・ド・ヴージョ」02年。恐る恐る飲んでみたら……。パッチリ目を開いて、にっこり笑っていた。 偉大な02年ブルゴーニュがとうとう起きた。私は喜んで、山ほど買い込んでいた02年ブルゴーニュを次々と空けた。また来年には眠ってしまうだろうと思うと、ついつい景気よく栓を抜いてしまう。本当はもう少し熟成を待つべきなのだろうが……。 さてそんな折、例によって弟と仕事中に、フレデリック・エスモナンの特級「シャンベルタン」01年を飲んだ。ナポレオンが愛したというこの特級畑、男性的な味が特徴のはずだが、なぜかパンチ不足で物足りない。 「去年飲んだときはすごくおいしかったのに……。ひょっとしてこのワイン、寝たかな?」と弟。02年に替わって、こんどは01年が冬眠に入ったのだろうか。やれやれ、である。 かくの如くワインとは、人生を変えるほど深遠で底知れない魅力を持っているが、人の気も知らず寝たり起きたり、やっかいでワガママな飲み物でもあるのだ。 ■今回のコラムに登場したワイン
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