現在位置:asahi.com>>コラム>「神の雫」作者のノムリエ日記> 記事

コラム「神の雫」作者のノムリエ日記

かくして今日も酔っぱらい

2007年10月18日

 『神の雫』がらみの取材やら試飲会が多い我々は、かなり肝臓を酷使している。

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第6巻(週刊モーニング連載中)

 「いやー、このところ忙しくて3日も酒を抜いちゃいましたよ」なんて人の話を聞くと、内心ちょっと焦り、「たまにはワインを抜かなくちゃ」と思ったりする。本当は仕事中、飲まなければいいのだが、ワイン漫画をやっているとそうもいかない。それに原稿を書く仕事というのは因果なもので、日が暮れてカタギの人々が寝る時間になっても、終らなければ考え続けるしかない。で、ずーっと仕事部屋にこもっていると、「ワインでも飲んで、カツをいれるか」と、どうしても気分転換したくなってくるのだ(我々はこういうときのワインをガソリン、と呼んでいる。車だってガソリンを入れなきゃ動かない、だから我々だってワインを飲まなきゃ仕事できない、というて身勝手なリクツだ)。

 ところがこういう時に飲むワインを選ぶのは、なかなか難しい。例えば、安いだけが取りえのワインをうっかり空けてしまったりすると、テンションがいきなり下がる。そして「こんなマズいワインを飲んで仕事ができるか」「もっとマシな別のワインを空けよう」ということになる。そして結局、1本強を二人で空けてすっかり酔ってしまい、仕事は翌日に持ち越される。

 おいしすぎる高級ワインを空けてしまった場合も、問題が生じる。「00年のエシェゾーは今すごくエレガントになっている」などとワイン談義に花が咲きまくり、仕事が放ったらかしになるからだ。結局、仕事中はおいしすぎず、まずすぎず、そこそこのワインをちびりちびりと味わうのがベストだ。

 さてこんな調子なので結局、仕事中はワインを飲まざるを得ない。「なら、休みの日にワインを抜けばいいじゃないですか」と時々、言われる。それはそうだ。しかしお正月やお盆などの長期休みは、ある意味「お祭り」である。お祭り気分になると、酒を飲みたくなるのが人の性。ついついセラーをあけて、ワインをひっぱりだしてしまう。

 「今日は飲むのをやめておこう」という日も、休暇中どこか旅行に行っている弟から「ヴァンサン・ジラルダンのロマネ・サン・ヴィヴァンを飲んだら、おいしすぎて卒倒」などという自慢のメールが届くと、もういけない。「そんな素晴らしいワインを飲むなんて」と、ムラムラと対抗意識がわき、相手を悔しがらせたくなり、とっておきの秘蔵ワインを空けてしまう。そして「こちらはジョルジュ・ルーミエのシャンボール・ミュジニー1級99年を飲んでマス」とメールを送ったりする。そうすると今度は弟から「なに? 仕事中は決してそんなワインを空けないくせに……」と悔しそうな反応が返ってくる。そして意趣返しに弟が秘蔵ワインをまた空け、対抗してまたこっも……と、負の連鎖がどこまでも続く。

 かくして我々は仕事中もワインを飲み、休暇中もワインを飲み続けている。身体によくはないだろうが、まぁ、ワイン漫画を連載しているのだから、ワインと心中するのも致し方ない。とりあえず神崎雫と遠峰一青が「十二使徒と神の雫」を見つけるまでは、肝臓にがんばり続けてもらうしかなさそうだ。

■今回のコラムに登場したワイン

  • ヴァンサン・ジラルダン ロマネ・サン・ヴィヴァン
  • ジョルジュ・ルーミエ シャンボール・ミュジニー

プロフィール

亜樹直(Agi Tadashi)
講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

この記事の関連情報

このページのトップに戻る