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コラム「神の雫」作者のノムリエ日記

600種類のワインをグラスで楽しめる店

2007年10月25日

 お店でフルボトルのワインを注文すると、ソムリエが形式的に試飲を勧めてくれる。でも、あれは劣化しているかどうかをお客にも確認させる作業なので、美味しくなくてもボトルの交換は許されない。一口飲んで「あちゃー、失敗した」と思った時などは、「どうしてグラス一杯を試してからボトルを頼むというシステムがないのだろう」と、本当に恨めしくなる。

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第3巻(週刊モーニング連載中)

 ワインを店で頼む場合、ハウスワインをグラスで飲むか、リストにあるワインをフルボトルで飲むか(ハーフを置いてある店もあるが、種類は限られている)、どちらかしか選べないのは、大いに問題ありだと日頃から思っていた。ところが、このパターンを破る画期的な店を発見した。

 東京は港区西麻布にある『ヴィーノ・デッラ・パーチェ』というイタリアン・レストランで、紹介してくれた某出版社の編集者氏によれば「料理もワインも本格派の、知る人ぞ知る穴場レストラン」なのだという。ちなみに、ここにはワインリストが存在しない。基本的には料理も、ワインの注文も全部、マネージャーでソムリエの内藤和雄さんにお任せで、しかもすべてのワインはなんと「グラス」で出されるのだ。

 内藤さんは失礼ながらニコニコと愛想の良いタイプではなく、はっきりいえばコワモテで、声も低く言葉も少なく、いささかとっつきにくい印象である。しかし、この方のイタリアワインに対する造詣の深さはイタリア長介も真っ青、本当に舌を巻いた。お任せのコースにあわせて出すイタリア各地のワインは、どれもまったくハズレなし。料理との相性も、ブレはなし。お店には全部で600種類のイタリアワインがそろっているそうだが、滅多に飲めないレアワインから有名どころまで、7、8種類もグラスで楽しんだ。印象に残ったのは、白だとロンバルディア州で作られる「キアヴェンナスカ・ビアンコ」(Chiavennasca Bianc)。赤ワイン用の葡萄で作られた珍しい白ワインだが、甘くフルーティで透明感があり、美味であった。赤ではトスカーナ地方、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの老舗ワイナリー「ファットリア・ディ・バルビ」(Fattoria dei Barbi)が良かった。華やかな果実の香り、濃厚なのに、柔和でエレガントなワインだ。

 この店がグラスでワインを出せるのは、お客でなく内藤さんがワインの「選択権」を握っているからである。ワインリストが存在し、お客がそこから選ぶ方式だと、ロスが出てしまうのでグラスで供給することはできない。しかし真にワインを知るソムリエがいれば、こんなやり方でお客に何種類ものワインを楽しませ、満足させることができるのだ。

 結局どのワインも美味しく、さんざん飲んでしまって、今、その時の感想を書いたメモを見ると、字まで酔っぱらっちゃっている。「そんなに飲んだっけ?」と考えて、ハタと気がついた。この店、グラスで次々と出されるので、自分がどれだけ飲んだかハッキリわからないのだ。いろいろなワインを楽しみたい向きにはとてもありがたいこんな店、もっと増えてくれると嬉しいが、飲んだグラスの数をちゃんと覚えていないと、ついつい飲みすぎてしまうのが難かも……(汗)。

■今回のコラムに登場したワイン

  • キアヴェンナスカ・ビアンコ

  • ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの老舗ワイナリー「ファットリア・ディ・バルビ」

プロフィール

亜樹直(Agi Tadashi)
講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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